介護タクシーコラム
奄美大島のお出かけ事情
2019年11月、鹿児島県の奄美大島に行ってきました。人生初の奄美大島、思いっきり観光を!…と言いたいところでしたが、残念ながら仕事なので…。介護タクシー事業者、タクシー事業者の方にお会いして地域のお出かけ事情について取材してきました。
※記事は取材当時の内容で、現在とは事情が異なる場合があります。
目 次
奄美大島の保険外介護タクシーは1事業者のみ
調剤薬局から介護関連事業を展開するシダマ薬局
奄美大島で唯一介護保険外の介護タクシーを運行しているのが、奄美市名瀬の(有)シダマ薬局が運営するあおぞら介護タクシーです。介護保険対象サービスとして運行している事業者はあるようですが、今回詳細を確認できませんでした。
広い島内にタクシーは約190台
奄美大島は北方領土を除くと沖縄本島、佐渡島に次いで3番目に大きな島なんです。人口は島全体で約59,000人、タクシーは法人約11社で190台程度(大島交通圏)。ちなみに人口・タクシー台数ともに同じくらいの沖縄県宮古島市は、奄美大島の1/3に満たない広さです。
そして福祉限定の介護タクシーはあおぞら介護タクシーの5台のみ。介助が必要な島の高齢者の移動はどうなっているのでしょうか?
介護施設への送迎が移動の中心
供給が大きく不足しているという認識はない。
あおぞら介護タクシーのサービス提供責任者の勝英晴さんは介護タクシー車両5台でニーズに応えられているのか?という質問に「現状の5台で需要にある程度応えられている。」と答えてくれました。また、その背景には家族の支援があること、デイサービスなど施設の送迎車両が充実していること、病院の往診が多いことの3点があげられると話します。
往診は家族の人的・経済的負担を軽くするが、高齢者は閉じこもりがちになる。
勝さんは介護タクシー5台で供給が足りている理由の一つ、病院の往診について「通院は家族の負担を大きくする。往診が多いことは決して悪いことではないが、外出の大きなきっかけを失うことにもなる。」と警鐘を鳴らしています。
あえて介護保険適用外の介護タクシーを運行している
あおぞら介護タクシーの師玉社長は、「当初は運営しているデイサービスの車両を増車することも検討していたが、施設利用者へ送迎だけでなく、買い物や観光、お花見などのお出かけにも使って欲しい、という思いで介護タクシーを立ち上げた。」と話します。
さらに「開業当初はしばらく赤字で苦しい状態が続いたが、地域のためにやり続けなければならないという信念のもと続けてきた。止むを得ず値上げを行ったが、事業を継続できずにやめることを選択するよりも、この料金で利用できる人だけが対象になってしまっても仕方がない、と割り切って断行した。客離れを懸念していたが、結果ほとんどのお客様が利用を継続してくれている。」と続けました。
確かに介助料などは首都圏の介護タクシーと変わらない金額に設定されています。それでも利用客が減らないということは必要としている人がいるということなのだと感じました。
福祉の目線で動き出すタクシー会社
高齢化を肌で感じる海浜バス/瀬戸内タクシー
「近々リフト付きの1BOX車両を導入しようと思っている。」と話してくれたのは、奄美大島南部、大島郡瀬戸内町の南部交通 泉社長でした。南部交通は瀬戸内町で路線バス(海浜バス)とタクシー(瀬戸内タクシー)を運行しています。自らバスのハンドルを握る泉社長は高齢化を肌で感じていると言います。
瀬戸内地区には福祉タクシー、UDタクシーが運行していない。
「バスを利用する高齢者の乗降が年々厳しくなってきている。現在、瀬戸内地区には福祉タクシー、UDタクシーが運行していない。福祉車両の導入は必須になりつつある。」と話してくれた泉社長。
「瀬戸内から名瀬(島の中心部)の病院まではタクシー料金がおよそ1万円程度かかる。利用者の経済的負担については重々承知している。それでもまず移動ができる環境を作るために動くことが大切だ。」という考え方に、私も共感しました。
奄美大島のUDタクシーは8台(取材当時)
8台すべてがJPN TAXI、車いす対応は?
奄美大島のUDタクシーは取材当時、奄美市名瀬の田中タクシーに7台、みなみタクシーに1台で計8台、全てJPN TAXIという状況でした。車いす乗降対応についてみなみタクシーの南社長にお話を聞きました。
「うちは軽ワゴンの福祉限定車両からJPN TAXIに代替したので、すでに車いすの顧客がついていた。限定で乗務していたドライバーがそのまま乗務しているので、車いす介助については問題はない。乗降にかかる時間も3分程度だ。」と話す南社長。一方7台を導入している田中タクシーについては車いす対応を積極的に行っていない、とのことでした。
車いす対応に消極的なのは乗務員の高齢化と研修機会の少なさが一因
奄美大島ではタクシー乗務員が島内でUD研修を受けることができず、鹿児島市内、もしくは福岡市内で受けるしか方法がないそうです。乗務員の高齢化、人手不足に加え、高齢者や障がい者への接遇について学ぶ機会が少ないことが車いす乗降対応への意識に影響しているのではないでしょうか。
乗降方法は自己流、利用者との信頼関係で成り立つ移送サービス
3分で完了するというJPN TAXIの乗降準備をみなみタクシーのドライバーさんに見せてもらいました。あれ?スロープが違う??疑問に思い尋ねてみると「別に購入したスロープで対応している。乗車後も車いすは横向きのまま走行している。近距離ということもあるが、こちらの責任の下、お客様に確認を取って対応している。」と説明してくれました。
UDタクシーは車いす無固定、横向き乗車OK!?
現場でこの対応を目の当たりにして正直驚きましたが、期せずして取材に入った数日後の2019年11月19日、国交省発行の文書「ユニバーサルデザインタクシーによる運送の適切な実施の徹底について」(国自旅第191号の2)にて、UDタクシーにおいて車いす無固定、横向き乗車は道路運送法違反に該当しないと通知され、2重の驚きがありました。
もちろん乗客の安全確保は最優先ですが、今回のようにローカルルールのようなもの、島民同士の信頼関係で成り立つ移送というものがあるのだと痛感しました。
高齢者の移動は赤字路線のバスが支える
自家用車以外の島内の移動は路線バスが担う
奄美大島の公共交通機関はしまバスと、先ほど紹介した南部交通(海浜バス)の2社が運行する路線バスになります。島内全域に渡り運行しているのはしまバスです。赤字路線が多く、一部補助金で賄われており、経営状況は決して良好ではありません。
島の高齢者は主に路線バスを利用しています。ただ路線によって本数が少ないなど、利便性が良いとは言えず、利用を控える方も多いようです。そうなるとドアツードアの移動ができるタクシーや介護タクシーの役割が必然的に大きくなってきます。
やるべきことは分かっている、それでも難しい現状
乗務員不足と困難な事業承継
今回お会いしたすべての方が「介護タクシー(UDタクシー)がなくなると地域住民が困る。続けなければならない。」と介護福祉輸送の必要性を口にしていました。ただそのあとに「(福祉タクシーは)採算が合わない」「担当する乗務員がいない」という言葉が続きます。
実際に福祉車両を導入後、採算が合わず運行を取りやめたタクシー会社もありました。またそれ以上に深刻なのは事業の後継者不在です。この問題は全ての地方タクシー会社に当てはまるのではないでしょうか。
続けるためには何をすべきか
しっかりと後を託してバトンをつなぐ。
奄美大島のお出かけ事情を取材してみて感じたのはいかにしてサービスを継続するのか。という問題でした。これは奄美の法人タクシーに限らず、多くの方の移動を支える全国の介護タクシー事業者にも言えることです。
開業年齢が比較的高齢な介護タクシーは、短期間で事業を休止または廃業する方が多い。介護タクシー事業者のみなさんには「自分がやめても誰かが何とかするだろう」ではなく、「自分がやめると困る人がいる、だから続けなければならない。やめる時は誰かにしっかり後を託さなければならない。」という思いで事業を続けて欲しいと切実に願っています。
車の性能やサービスの内容・質を語る以前に、どうすればサービスを継続できるのか。利用者のために制度とサービスが連携して対応していく必要があると私は考えます。
※参考資料※
- 鹿児島県市町村別人口動態調査(H30.10.1)
- 九州運輸支局届出車両台数(H30.3.31)
- H27年国勢調査