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介護タクシーコラム

タクシードライバーに聞くJPN TAXI「車いす乗車問題」

タクシー

縦列駐車するJPN TAXI

2017年10月、次世代タクシーとしてトヨタ自動車より華々しくデビューしたJPN TAXI(ジャパンタクシー)。車いすのまま乗車できるユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)としても注目を集めていました。しかしJPN TAXIが走り出してから約3年、顕在化したのは車いす利用者の乗車拒否問題でした。

この問題について、現場で働くタクシードライバーの声を聞く機会がありましたので、みなさんにお伝えしたいと思います。

ドライバーの声はどこへ・・・

明治通りを走るJPN TAXI

車いす利用者の乗車拒否防止への取り組み

多発したJPN TAXIの乗車拒否について、国土交通省はタクシー事業者へ2018年11月(国自旅第185ー2)と2019年11月(国自旅第191ー2)の2回に渡り是正の通達を出し、対応の徹底を指導しました。またトヨタ自動車も2019年3月にスロープ改良モデルをリリースしました。

改良スロープのJPN TAXI

改良後のスロープ(JPN TAXIホームページより)

車いす利用者の声に応えるべく、行政、車両メーカー、タクシー会社が一体となって問題解決に向け頑張っている、これから良い方向に向かっていくはず。なのですが、ここにひとつ見落としているものがありました。それは現場で乗客に対応するドライバーのみなさんの声です。

車いす乗車を考える会

車いす乗車を考える会

1通のメールがきっかけで取材を依頼

昨年(2019年)12月、担当の仁科さんから「介護タクシー案内所に掲載している写真を使わせてほしい」という連絡をいただいたのがきっかけで、車いす乗車問題を考えるタクシー乗務員の有志団体があることを初めて知りました。

団体の所在地など詳細が明らかにされておらず、最初は実在性に少しの疑問を感じていました。しかし、ホームページでしっかりとした調査を根拠にドライバー目線で国土交通省、トヨタ自動車、障がい者団体に対して提言をしている内容を見て、取材をお願いしてみようと決めました。

JPN TAXI車いす乗車拒否問題の偏った報道に違和感

世田谷区内を走るJPN TAXI

誰もが安心して乗れる「真のユニバーサルデザインタクシー」を実現することが目的

車いす乗車を考える会は、東京特別区+武三地区(23区+武蔵野市・三鷹市)で営業するタクシー会社で乗務するドライバーを中心に集まった有志会「全国JPNタクシー乗務員友の会」が、真のユニバーサルデザインタクシーの実現を目指して活動しています。

会の設立は2019年11月1日、JPN TAXI車いす乗車問題についての偏った報道内容に、現場のドライバーとして違和感を感じたことがきっかけだったそうです。車いす乗車を考える会は、JPN TAXIで車いすの乗降に対応するには構造的に危険があり、場合によっては乗車拒否もやむを得ない、正当な行為であると主張しています。

JPN TAXIでの乗車拒否が正当な行為となる場合

  1. 乗客+車いす+乗務員の合計重量が200kg(または300kg ※耐荷重300kgスロープの場合)を超えている。
  2. 車いすが乗車できるサイズ・重量に適合していない。(車両の仕様、国交省のガイドラインに沿っていない)
  3. 介助者、または乗務員(女性・高齢者・障がい者など)がスロープを使って乗客を座席まで押し上げることができない。
  4. 雨天や降雪時にスロープで車いすや介助者の足元が滑る危険性がある。

車いす乗車を考える会では、上記の状況が道路運送法第13条(運送引受義務)で運送の引き受け拒否が認められる第2項 当該運送に適する設備がないときまたは第3項 当該運送に関し申込者から特別の負担を求められたときに該当すると主張しています。

上記のうち、特に3.は判断が難しいところです。力の弱い女性や高齢者、障がい、腰痛やヘルニアを抱えるドライバーなど、車いす乗降介助作業が困難なドライバーでもJPN TAXIに乗務しています。車両はUDタクシーであったとしても、介助するドライバーの身体状況によっては車いす乗降に対応できない場合があるのです。

正当な理由のない乗車拒否は是正すべき

新宿駅西口ターミナルを足るJPN TAXI

とはいえ正当な理由もなく乗車拒否をすることはあってはならないこと。タクシー業界にも改めるべきことはあるはずです。現場の実情に則して慎重に改善して欲しいです。なぜならサービスを可視化して評価することは比較的簡単なことですが、サービスを提供できないことを可視化、検証することは意外と難しいからです。

研修で教えてもらえないこと

手順の説明はあるが、スロープの角度や乗務員が対応できる重量についての説明がない。

車いす乗車を考える会への取材で、現場での研修内容についての回答がとても気になりました。スロープ勾配や重量について、全く教えられていないというところです。ここを理解できていないと無理な対応をしてケガや事故につながりかねません。

一般タクシーとJPN TAXI

車種によって乗務員の身体的負担が変わる?

先方からの回答をあえてそのまま記載すると「教える人が全く分かっていない」「面倒なことは乗務員任せ、問題があれば乗務員の責任」「どこに問題があるのか?見つけて改善しよう、という意識そのものがない」という厳しい内容でした。

乗務員の身体状況に応じたガイドラインを

確かにこれまでUD研修やドライバーの取材を行ったとき、JPNTAXIの車いす乗降に対して手順や作業時間などの話は出るのですが、共通の車両規定以外で乗車対応できないケースについてのお話を聞くことはありませんでした。最大14度の勾配を安全に介助できる重量(車いす+乗客の重さ)を把握しているドライバーは一体どのくらいいて、どのくらいのタクシー会社が個々の乗務員が対応できる重量を把握しているのでしょうか。

JPN TAXIスロープ勾配

同じJPN TAXIでもモデルによってスロープの勾配が異なります(上図参照)。歩道の高さによっても対応できる内容が異なりますので、乗務員の健康にも配慮しながら状況に応じて対応可否を判断する精細なガイドラインが必要になると思います。

スロープ勾配と重量

以前よりスロープ勾配と重量についての検証はされていた

ここでH15年3月に国交省自動車交通局が作成した平成14年度次世代普及型ノンステップバスの標準仕様策定報告書のなかにスロープの勾配と重量についての検証結果がありましたので紹介します。

次世代普及型ノンステップバスの標準仕様策定報告書

こちらは車いすの重量、介助者の体重が記載されていませんが、自走式の車いすであれば15kg程度と考えて良いでしょう。個々の体力差などを考えず、介助経験のない方がスロープの角度を変えて行った実験です。勾配14度近くなると介助者に負担が大きくなることが分かります。

先ほどご紹介したように、歩道がない平面の状況でJPN TAXIのスロープ勾配はスロープNo.1が10度、No.2は14度、ちなみに同じUDタクシーでNV200のスロープ勾配は12度、その他UDのセレナe-powerは10度になります。

介護タクシーは車いす介助のプロ、UDドライバーは・・・

もちろん、比較対象となる介護タクシーもスロープタイプの福祉車両で営業していますが、ほとんどの車両がスロープ勾配10度以下です。さらに根本的な違いとして、介護タクシードライバーは介護従事者の資格を持っていて、車いすやストレッチャーの乗降介助を行うことを目的に営業しているということが言えます。

反対に一般タクシードライバーにとってみると、ある日突然、会社から「これから車いすのまま乗降できるタクシーを導入するので対応してください」と言われたわけですから、ベテランの高齢ドライバーや女性ドライバーにはかなりハードルが高く、意識の差があって当然だと思います。

全車をJPN TAXIにタクシーに代替する会社もある

いくつかのタクシー会社では保有全車をJPN TAXIに代替しています。身体的な事情で車いす乗降介助ができない、もしくはできなくなったドライバーは、流しや乗り場で車いすの方にどのように対応すればよいのでしょうか。その場合の対応方法、乗客への周知方法など、タクシー会社でガイドライン等作成しているのでしょうか。

乗車可否判定ツールの利用促進

乗車可否自動判定ツール(JPNタクシー用)

車いすの重量と自分の体重、ドライバーの体重を入力すると対応可否が分かる

車いす乗車を考える会では乗車可否自働判定ツール(JPNタクシー用)というシステムを開発して利用を促進しています。乗客が利用している車いすを一覧から選んで必要事項を入力すると、対応可否が分かるツールです。

JPN TAXIを予約や流しで利用する際は、参考にしてみると良いかも知れません。各種法令、通達、ガイドラインに基づいて設定されています。筆者も以前【コラム】JPN TAXIはユニバーサルデザインなのか(後編)で提案をしていた車いすのUDタクシー適合表が、車両メーカーや車いすメーカーからではなく、有志のタクシードライバーによってカタチになったわけですが、こちらも本来であれば、動くべき人は他にいたのではないでしょうか。

真剣に考えるのか、それとも見過ごすのか

駅前で客待ちするJPN TAXI

言っても仕方がない。と思われて社会が落ち着くのを待つのか

2018年11月、2019年11月の2度にわたり、国土交通省からタクシー事業者宛に車いす対応についての指導を促す文書が発行されました。これはある障がい当事者団体のUDタクシー乗車運動をもとに出された要望を受けて発表されたもので、そこにはサービス提供者の声が反映されていません。

JPN TAXIの乗車拒否が問題となる前に、乗務するドライバーの声をよく聴いて、行政や車両メーカーへの要望、利用当事者の方々への理解とお願いを業界がひとつになって対応していれば、問題がここまで大きくなることはなかったのではないでしょうか。

タクシー会社は行政や車両メーカーとのしがらみを断ち切って、利用者と乗務員の声を聞いて欲しい。

今からでも遅くはありません。車いす乗車を考える会の活動は、本来タクシー会社が乗務員の先頭に立って行うべきもののはず。当事者全員の声が揃わなければ「真のユニバーサルデザイン」は実現しません。「臭いものにはフタをする」ような考え方を止めて、ドライバーの声を真剣に聞いて欲しいです。


JPN TAXIのタクシー会社や乗務員、利用客による評価は、個人差はありますが概ね高いと言ってよいでしょう。しかし、ほぼ100%の方からJPN TAXIは車いす対応に問題があるという言葉が出てきているのも事実です。

問題があることは分かっているのに見直そうとしない。そんな現状に、車いす乗車を考える会はUD基準の見直し・JPN TAXIのUD認定取り消しというストレートな提言で警鐘を鳴らしているのです。

UDタクシーは誰にとっても便利な「夢の乗り物」ではありません。誰かにとって便利なものは、他の誰かにとっては不便なものなのかも知れません。国土交通省はもう一度現状を整理して共通の認識のもと、制度を再構築してもらいたいです。

車いす乗車を考える会

車いす乗車を考える会

全国JPNタクシー乗務員友の会が運営。誰もが安心して乗れる「真のユニバーサルデザインタクシー」を実現する事を目的に、タクシー乗務員の視点からJPN TAXIの乗車拒否問題について発信している。

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