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介護タクシーコラム

芝浦工大におけるUDタクシーについての授業とディスカッション

タクシー

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芝浦工業大学工学部には「福祉と技術」というユニークな講座がある。就職した後「自分が設計する、あるいは扱う製品をもし障害のある人が使うとしたら?」ということが頭の片隅に浮かぶ。そんな技術者を作りたい、という工学部の中村広幸教授の願いで8年ほど前から開設されているものである。

「福祉と技術」講座

授業は中村教授のほか、筆者を含めた4人の非常勤講師によるオムニバス形式で前期・後期にそれぞれ14コマずつ行なわれる。障害当事者の視点を重視し、講師陣には視覚障害、上肢障害の当事者が2名おり、障害についての座学と全盲疑似体験、車いす体験なども行なっている。

さらにゲスト講師として聴覚障害、運動機能障害、言語障害の当事者を招いて学生に体験談を語ってもらう。今年度の受講生は約50名である。多くの学生はこれまで福祉、障害ということとは無縁の生活を送り、知識も経験もほとんどなく、この授業で初めて知ったという学生がほとんどである。

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障害当事者の視点を重視
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全盲疑似体験

UDタクシーについての講義

筆者が担当するコマの一つに「ユニバーサルデザイン」がある。ユニバーサルデザイン(以下UD)の概論の講義とともに、学生とのディスカッションを行なっている。先日はUDの実例として一部UDタクシーを取り上げた。

UDタクシーの概論については、最新の情報を介護タクシー案内所の滝口淳さんに教えていただいた。以下、簡単に授業時や終了後に学生から出た意見、感想を中心にまとめる。

学生の意見・感想

学生は皆ダルマ型のタクシーが増えていることは認識していて、ほとんどがUDタクシーであることを知っていたが、具体的にどのようなものであるかは知らなかった。また、一般客も利用できることは分かっているが、自分が利用するのは何となく気がひけるという学生も何人かいた(空いている優先席に座るときの気持ち、と表現した学生もいた)。

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UDタクシーの利用は優先席に座る感覚

国の施策としてUDタクシーを増やしていくという説明には全員が納得し、良いことであると受け止めている。これまでは車いすの人はタクシーを利用しにくく、とくに重度の人の場合は予約が必要だということ知らなかった学生も多く、これが一般客と同様に流しのタクシーを拾えるのは画期的だという意見もあった。

講義では、問題点の一つとしてスロープのセット時間が長いことを挙げ、このために車いすの客でもわざわざ折りたたんで乗車する人もいること(これは実際に筆者の友人の車いすユーザーが体験をしたことである)、タクシー会社、ドライバーとしては効率の低下が経営上の難点であり、中には乗車拒否も発生したことを説明した(筆者の知人も停まってもらえなかったことがあるという)。

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スロープのセット時間が問題

これに対しては、会社やドライバーの意識向上策が重要だと指摘する声が多かった。セット時間の問題は機構に改善の余地がたくさんあるのではないか、たとえばヘッドレストはワンタッチで外せるようにする、スイッチ一つでシートが動くようにするなどは、現在の技術でもできるのではないかとの意見があった。

UDドライバー研修についても説明したが、研修が1日だけで、それも座学が大半で車いす中心であることに問題があるだろうとの指摘があった。UDタクシーという以上、視覚障害の人のガイド、手話での簡単な受け答え、さらには外国語のやり取りなどの研修も必要ではないかという意見もある。

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UD研修風景(講義)
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UD研修風景(実技)

※UD研修風景写真は国土交通省HPより引用


今回は講義の一部での時間しか取れなかったが、今後は機会を得て実利用体験なども行なえればと考えている。UDタクシーについていろいろご教示いただいた、介護タクシー案内所の滝口さんには心から感謝いたします。

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著者紹介

岡本 明(工学博士・社会福祉士)
1967年慶大・工・電気卒、(株)リコー勤務、筑波技術大学教授を経て現在筑波技術大学名誉教授。福祉工学研究、教育に従事。ヒューマンインタフェース学会副会長、電子情報通信学会福祉情報工学研究会委員長などを歴任。著書等に『誰のためのデザイン 増補改訂版』(共訳,新曜社)、『期待を超えた人生-全盲の科学者が綴る教育・就職・家庭生活』(訳:慶応大学出版会)、『会議・プレゼンテーションのバリアフリー』(共著代表、電子情報通信学会)他

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