ドライバーインタビュー
福祉タクシー117 中村さん
福岡県久留米市で第1号の福祉タクシー事業者、福祉タクシー117(イイナ)の代表 中村さんからお話を伺いました。元教師で今でも教え子から「先生」と慕われている中村さん。現在は「お出かけ系」福祉タクシーとして父娘で地域のみなさんの移動に貢献しています。
2020.2.12追記
福祉タクシー117は車両を取材当時のヴォクシーとタントの2台から、1BOXのレジアスエースとタントを代替しています。現在はレジアスエースとヴォクシーの2台体制です。記事は取材当時の内容になります。
目 次
介助が必要な方へ車を使って「楽しみ」を提供したい
介護(福祉)タクシーをはじめたきっかけは?
もともと運転が好きで、長い時間運転するのが苦にならない性格でした。30年間中学校の教員をやっていましたが、その中で障がいのある生徒のクラス(特別支援学級)を受け持った時に車いすの介助などを経験して移動の大変さを実感したことと、高齢の父を狭い自家用車で通院させることの大変さを実感したことで、何か自分にできることはないかとずっと考えていました。
私の場合、通院だけでなく旅行や日常生活の「楽しみ」に車の移動で貢献できないかと考えていたので、福祉タクシーというものがあると分かったときは「自分が探していたのはこれだ!」と思い、開業支援をしてくれるNPO法人日本福祉タクシー協会へ連絡をして、2013年に福祉タクシー117(イイナ)を開業しました。
久留米市で福祉タクシー第1号ということですが、開業当時は営業が大変だったのでは?
思い切って教師を辞めて福祉タクシーを始めたものの、果たしてこの仕事で生活していけるのだろうか?という不安もありました。それがとても有難いことに生徒から「先生、待ってる人がいるから車が来たらすぐに連絡して!」と言われ、納車後すぐに仕事の依頼が入りました。特別支援学級を担当していたつながりから児童養護施設からも依頼があり、スタートはとても順調でした。
その後は時間を見つけて病院や介護施設、福祉施設などにチラシを持って営業に回りました。少しづつ福祉タクシーの認知も広がって、リピーターの利用者に新規の利用者が加わることで仕事が安定していきました。
協会メンバーで協力して対応
セールスポイントを3つあげてください
- 日本福祉タクシー協会メンバーとの協力体制。
- 2台体制で予約が取りやすい。1台は軽ワゴンで乗り降りしやすい。
※2019年9月で軽ワゴン取扱い終了 - 女性ドライバーが在籍している。
現在、日本福祉タクシー協会では久留米市内に4事業者が加盟していて第1号の私が支部のまとめ役をしています。病院の送迎など時間が読みにくく、予約の調整が難しい時は協会メンバーで協力してお客様に不便がないように対応しています。また昨年2台目(タント)を導入したので予約の調整ができるようになり、営業がとても楽になりました。
2台目のタント(軽自動車)の方は車いす専用なのですが、杖や押し車(シルバーカー)の方は座席によじ登って乗るヴォクシーより軽自動車のタントの方が乗降が楽にできます。こちらの車は娘がドライバーをしているので、女性の介助を希望の方にも対応できるのがセールスポイントです。もちろん、私も娘もヘルパーの資格を持っているので乗降介助も安心です。
※2019年9月でタントの取扱いは終了しています。
採算や効率よりも、お客様に少しでも笑顔に、元気になってもらいたいという思いをいちばん大切にして営業しているので、お客様に喜んで頂けていると思っています。
日常生活や観光などの利用で気軽に利用してもらっている
利用者はどのような方が多いですか?
通院、通所、転院などの利用は全体の20%程度で、個人のお客様に日常生活でご利用いただくことが多いです。例えばご自宅や施設から美容院、スーパーまでの送迎、ご家族と一緒に外食など普段の生活で移動の手助けが必要な時に声をかけていただいています。最近はご家族がインターネットやタウンページを調べて予約を入れてくれることも多くなってきました。
あとは冠婚葬祭や観光・旅行のご利用ですね。お孫さんの結婚式に出席される時や九州観光などでご利用いただくときは、みなさん笑顔で私も嬉しくなります。また、送迎先の施設やお店のバリアフリー状況の情報収集を行いながら、お客様へお出かけ先の提案ができるよう心掛けています。
教師を辞めてからしばらく経っているのに、生徒たちからいまだに「先生、先生」と呼ばれているので、新しいお客様から「なんで先生なの?」と聞かれることもあります(笑)。そうやって地域の皆様に支えられていることをとても幸せに感じています。
アメリカ人夫妻を乗せて福岡観光
利用者とのエピソードで印象に残っている<ことを教えてください。
介護付きの旅行を計画する事業者から依頼を受けたアメリカ人夫妻の観光旅行を担当した時のことは忘れられません。中国から客船で博多港に入港・入国したご夫妻を太宰府天満宮、キャナルシティ、天神などをご案内しました。ご主人が車いす、奥さまが杖を使っての移動でした。ヘルパー兼通訳の方が同乗していたのですが、とにかく緊張した1日でした。
その他は下関の水族館(海響館)までの観光案内、久留米市内の施設から福岡市内の美容院まで1時間かけて通われているご婦人、元教え子のお母さんを年に数回外食に連れていくときの送迎など、いろいろなエピソードがありますが、みなさん元気だった頃に行っていた場所にもう一度行きたい、行って思い出を語りたいというお気持ちが強いですね。それを叶えるお手伝いをこれからも続けていきたいです。
ソフトバンクの大ファン
突然ですが好きなものを3つあげてください。
もちろんソフトバンクの応援です。九州の人間ですから。あとは海の幸、シーフードが好きですね。カニとか寿司とか。だから北海道が好きなんです。以前2回北海道で一人旅をしたことがあるのですが、1回目は富良野や美瑛の道央めぐりをしました。2回目は函館に4泊滞在して憧れのウニ丼をいただきました。
好きな言葉は「自分にできる精一杯」
利用を検討されている方へメッセージをお願いします。
福祉(介護)タクシーの存在を知らない人がまだたくさんいると思います。病院通いなどで苦労をされている方に一度利用していただいて、少しでも負担を軽くしてほしいと思っています。実際に初めて利用していただく方には「こんな便利なタクシーがあったんですね。知らなかった。」と喜んでもらえると嬉しいですね。
また日本福祉タクシー協会久留米支部では全員が乗務中にこの白いベストを着用しています。制服というほど固いものではないのですが、やはり完全に私服で乗務するのはどうかと思うので。私たちの活動を通じて、多くの方が笑顔で元気になってもらいたいです。
最後に好きな言葉を教えてください。
自分で作った言葉で、本当はそれではいけない部分もあるのかもしれませんが「自分にできる精一杯」という言葉です。特別支援学級を受け持った時もそうでしたが、精一杯やることで、生徒や利用者の方との距離が近くなりすぎたりすることもあります。自分にできる精一杯を超えてしまうと逆に迷惑をかけてしまう。だから私は自分にできる精一杯を大事にしたいと思っています。
自分は「医療系」ではなく「お出かけ系」の福祉タクシーだと話す中村さん。自分のことを話す以上に人の話を聞くことがとても上手な方でした。私もつい自分のことを話してしまい、私が話している時間の方が長かったかもしれません・・・。これからも自分にできる精一杯で利用者を笑顔に、元気にしてあげてください!
※「函館のウニ丼」の話には後日談があります。ご本人に聞いてみてください(笑)。