介護タクシーコラム
ユニバーサルドライバー研修に参加してみた
「高齢者や障がい者など、すべてのお客さまへの接遇や介助を向上する」ことを目的として、(一社)全国福祉輸送サービス協会および(一社)全国ハイヤー・タクシー連合会が全国のタクシードライバーに受講を推進しているユニバーサルドライバー研修(UD研修)。今回は神奈川県横浜市の東宝タクシーで開催された合同UD研修の取材をしてきました。
目 次
人気のUD研修
UD研修は話題のユニバーサルデザインタクシーに乗務する際に役立つ知識が得られるので非常に人気が高いそうです。今回も20名ほどの受講者で会場がいっぱいでした。まず当日の講師も務める東宝タクシーの大野社長よりオリエンテーションがあり、その後すぐに講義が始まりました。10:00~17:50までの長い1日のスタートです。
地元横浜のデータをもとにした分かりやすい講義
UD研修は決められたカリキュラムに沿って進みますが、基本を押さえていればある程度講師の裁量で研修内容を決められるそうです。大野社長は「UDタクシーの運用」「移動に制約がある人の外出頻度」「高齢化の状況」「移動困難者数の推移」など、受講者のドライバーが営業する横浜市のデータを紹介しながら講義を行っていました。受講者に身近な情報を伝えることはとても大切なことだと思います。
コミュニケーションがもたらす効果
講義の中で紹介されたデータで私が驚いたのは、神奈川県タクシー協会では月に1回振り込め詐欺を未然に防いでいるということでした。大野社長は今後あらゆる分野においてAIが導入されていく中で、タクシードライバーの接客・コミュニケーションスキルはAI化されにくい。ここを高めていくことがタクシーにとって不可欠になる。と強調していました。
バリアフリーを実現するのはドライバーの声がけ
現状、タクシー業界が抱えている問題点についても明確に説明があり、UDタクシー乗り場の整備、配車受付時に「介護タクシーはありますか?」と聞かれた時の対応など、業界が取り組むべき内容を浮き彫りにしていました。ここで大野社長が話していたどんなに頑張っても世の中すべて真っ平になるわけではない。バリアフリーを実現するのはみなさんの声がけです。という言葉がとても印象的でした。
これは介護タクシーにも通じることですし、私たちの日常生活でも同じことが言えますよね。
キーワードは「何かお手伝いできることはありますか?」
午後の研修は演習がメインになります。まずはじめに横浜市鶴見区でよりそい看護ケアセンターを運営しているK&Yヘルスケアの栗原社長から接客の留意点や車いすの種類・機能について説明がありました。演習に入る前に栗原社長はお客様に笑顔で「何かお手伝いできることはありますか?」と声をかけることが何よりも大切。とポイントを説明していました。
車いす乗降を演習
ここから約2時間ほど東宝タクシー車庫にて演習を行います。1月の研修だったのでとにかく寒い!それでもみなさん真剣に取り組んでいました。現場での経験に基づいた質問やドライバー同士の意見交換など、とても有意義な時間になりました。
4つのグループに分かれて演習
演習では「車いすなどの扱い方」「段差介助・スロープ介助」「NV200車いす乗降」「JPN TAXI車いす介助」の4つの項目をグループごとにローテーションしました。介助者の身体に負担のかからない車いす介助の方法など、実践することでコツを覚えていきます。
UDタクシー車いす乗降の難しさ
この演習であらためて私が感じたのはUDタクシーの車いす乗降の難しさです。乗客を限定せずに全ての方が乗車することを想定したUDタクシーは、車いす乗降に対応するためのアクションが多いのです。介護タクシー(福祉輸送事業限定)と比べてある程度時間がかかるのはやむを得ないのではないか、と思うほど工程や気を付けるべきことが多いのです。
介護タクシーは車いすの方を中心に移送を行っているのに対し、一般タクシーのドライバーにとって車いす介助は頻度が少ない。機器類の使い方の習熟度に差が出るのは当然。しかもシートアレンジなどの工程が追加されます。
介護タクシーとUDタクシーは利用者にとって車いすのまま乗降できるタクシーということにおいて違いはありませんが、乗客を限定する介護タクシーと限定しないUDタクシーとでは、乗車までのプロセスが大きく異なるのだと感じました。
日常的な訓練と車両機能の向上に期待
UDタクシーの役割は「誰でも利用しやすい」ということ。出庫前にスロープ設置の実習を行うタクシー会社もあります。訓練すること、そして場数を踏むこと。これが現場のドライバーにできる最大限のことなのです。あともう一つ、今回改良されたJPN TAXIのスロープのように、扱う車両の機能向上も必要です。
バリアフリーのみに焦点を置きがちですが、UDタクシーは「みんなのタクシー」です。ハードもソフトも総体的に向上しなければいけません。車いすのアクセスは向上したけれど一般の方が利用しづらくなった。これではUDタクシーとは言えないですよね。
気配り・優しさ・思いやりが大切
演習の後は会場に戻って乗降対応のDVDを視聴、それから栗原社長によるお客様の理解と接遇・介助の留意点についての講義がありました。高齢者、認知症患者、肢体不自由者、障がい者など細かなケースに分かれて理解と接遇・介助について学びました。
3つのグループに分かれてグループディスカッション~発表という流れで行なわれた講義では、異なる会社のドライバー同士が情報交換をしながら課題に取り組んでいました。合同で実施することのメリットを感じます。最後に栗原社長は受講者全員に全ての乗客に対する気配り・優しさ・思いやりが大切であることを確認して講義を終了しました。
ドライバー自身が健康である必要がある
研修の最後に、大野社長よりこんな一言がありました。お客様に十分な接客を行うためには自分自身が健康でなくてはならない。自分の健康管理も大切なこと。まさにその通りで、一般タクシーも介護タクシーもドライバーが心身ともに健康でなければ相手に気を配ったり、介助をすることもできません。
横浜市健康経営認証AAA(トリプルA)を取得し、従業員の健康づくりに力を入れている東宝タクシーならではの言葉でした。お昼にいただいたTAVENAL(タベナル)のお弁当も健康維持を目的とした東宝タクシーの施策です。健康であること、それは何においても最初に必要なことなのだと再認識しました。
みなさん長い時間本当にお疲れ様でした。また、お誘いいただいた東宝タクシー大野社長に御礼申し上げます。UD研修は基本的な項目を幅広く、という内容なので受講者にとって新しい事ばかりではなかったと思います(実際自分にとってもそうでした)。それでも自身の経験や知識の再認識には大いに役立つ研修でした。
同時に一般タクシーだけでなく介護タクシードライバーも一緒に受けられるようになれば、お互いの経験と知識、情報を共有してより良い地域交通の枠組みができるとではないかと感じました。