介護タクシーコラム
介護タクシーグループ 代表対談(inアクト❤すまいる)
2021年4月の終わり、3回目の緊急事態宣言が発出される直前でしたが、愛知県名古屋市にある一般社団法人介護・福祉移送ネットワークACTが運営するアクト❤すまいるコールセンターを訪問しました。
今回は介護タクシー案内所で初めての対談形式の取材コラムです。対談したのは介護・福祉移送ネットワークACT代表理事の鎌倉さんと、日本福祉医療輸送機構JWMTO(ジェウント)理事長で福祉限定輸送協会の会長でもある関澤さんです。今後の介護タクシーについて語っていただきました。
2021.5.21追記
2021年5月のJWMTO(ジェウント)総会にて、関澤理事長は理事長を退任、理事として協会外部の同業者および行政に対する活動に注力することになりました。記事は取材当時のものになります。
目 次
代表者プロフィール
鎌倉 安男(かまくら やすお)
一般社団法人福祉・介護移送ネットワークACT 代表理事、前名古屋市議。2012年に団体を設立、介護タクシーグループ「アクト❤すまいる」の名称でコールセンターを運営。現在は愛知県下で40事業者が加盟している。毎月の定例会で最新の情報と技術をアップデートし、グループ全体の移送スキル向上に努めている。
関澤 俊夫(せきざわ としお)
全国の介護タクシー事業者団体が集まる一般社団法人日本福祉医療輸送機構JWMTO(ジェウント)の理事長で、東京都を中心に約50事業者が加盟する一般社団法人福祉輸送限定協会の会長も兼務している。介護タクシーの全国組織として、行政への提言などを行う。また2020年に一般社団法人介護タクシー開業経営支援協会を立ち上げ、事業者の開業支援、経営支援を行っている。
近年、救急車の適正利用が求められている
本日はよろしくお願いします。お二人は以前から交流があるということなので、自由な話題でお話いただければと思います。
鎌倉 安男氏(以下、鎌倉):アクトは今年で10年目を迎え、設立の時は関澤さんにも力を貸してもらった。10年経って私たちが行う移送の内容も患者搬送中心に変化してきている。私たちの仕事はベッドからベッドへ介助することがほとんどなので、救急車の適正利用に寄与するために国土交通省ではなく、むしろ総務省や厚生労働省と一緒に取り組んでいく方が正しいと考えている。
関澤 俊夫氏(以下、関澤):私も同感だ。ジェウントも設立から5年、まだまだ業界の役に立っていない。そろそろ活動を見直す時期だと思っている。加盟団体にとってより意義のある団体になっていくためにも、鎌倉さんのような方の力が必要だ。
鎌倉さんと同じように私も今の「介護タクシー」という呼称に違和感を覚えている。「転院搬送は救急車で」という地域もあるが、救急車が税金で賄われているのは同じこと。対策を講じないといけない。
鎌倉:賛否両論はあるが、救急車の有料化についても国で検討していくべき。アクトでは2020年12月より名古屋市からコロナ患者の搬送業務を受託しているが、コロナの影響で病床以上に救急車不足が深刻になっている。
ダンピング競争で「安かろう悪かろう」に…
介護タクシーは利用料金が事業者によってまちまちで分かりにくいという声が多いのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?
鎌倉:たまに介護タクシーはボランティアで活動しているのではないか?行政サービスではないかという質問をされることがある。これは一部の介護タクシー事業者がボランティアと同じ対応をしているから。事業者によって料金が大きく異なるのは、お客様にとっては不信感しか残らない。
関澤:仕事を取るために事業者は料金を他社よりも安く設定してしまう。そういう事業者がルールを持たずにグループを作るとグループ同士でダンピング(値下げ)競争になってしまう…。
鎌倉:福祉サービスはボランティアでは完結しないと言われている。どんなに安く良いサービスをしていても事業として継続できなければ無責任だ。ダメになった途端に周りにしわ寄せがやって来る。お客様が他の事業者、例えばアクトの利用を検討した時に、実際は適正な料金であっても「高い」という印象を持たれてしまう。
関澤:サービスの内容を考えると決して高い金額ではないはず。自分の仕事に自信がないから値引きをしてしまう。低料金であっても持続できなければ最終的に困るのはお客様だ。
鎌倉:医療財源が厳しい中、国は在宅介護・看護を推奨している。在宅生活で一番大切なのは通院などの移動だ。患者搬送はこれから間違いなく増えていく。命にかかわる搬送に「安かろう悪かろう」は決してあってはならない。
社会問題化する「看取り搬送」問題
鎌倉:在宅の推奨ということは、自宅で看取るということ。そこで「看取り搬送」が問題になる。例えば自宅で老衰のため息を引き取った場合、夜間などは医師が訪問しづらく、救急車の利用を勧められる場合があると聞く。救急隊員は心肺蘇生を行う義務があり、病院側も処置を行わなくてはならない。
ご家族が「ここまでしてもらわなくても良かった」という処置を行っている間、別の救急患者のために処置室を空けることができない。この状況はこれから社会問題化すると思う。
関澤:確かに看取り搬送は増えてきている。車いす利用者の移送も大切だが、UDタクシーで対応できる部分は一般タクシー会社にお願いして、我々は車いすでは運べない人たちの搬送需要に応えなければならない。
鎌倉:アクトは「マラソンフェスティバルナゴヤ・愛知」で例年30台近い救護車・民間救急車を各救護所等へ派遣、ランナーのサポートをしている。これは医療従事者の皆さんにとってトリアージ(処置が必要な患者の優先順位をつけること)の訓練を兼ねていて、災害時の患者搬送や看取り搬送問題の対策にもつながっている。
介護旅行の一番のバリアは「気兼ね」
健康な在宅生活を送るために外出が果たすべき役割は大きいと思います。外出支援についての取り組みについていかがでしょうか?
鎌倉:GNP(元気で・長生き・ぽっくり)で人生を過ごすためには外出が必要。でも今の医療・介護はJJY(じわじわ弱る)対応をしてしまっている。例えば介護旅行で一番のバリアはトイレでも食事でもなく、何かあったら周りに迷惑がかかるという「気兼ね」であり、それを解消するのが介護タクシーだと思っている。
閉じこもりはADLを低下させてフレイルを引き起こす原因になる。外出の必要性を訴えるには個々の事業者単位ではなく、全国的な団体として活動することが大切。そこで関澤さんの出番になる。
関澤:国や行政に声を届けるには政治の力が不可欠。救急車の適正利用や介護タクシーの政策的な位置付けなど、超党派で取り組んでもらわないと、我々が利用者に寄り添ったサービスを提供することが難しくなる。
あくまでも目線はお客様
鎌倉:そう。あくまでも目線はお客様にあるべき。介護タクシー事業者が自分たちのために国や行政に要望を上げるのではなく、利用者が困っていることを解決するために訴えていかないといけない。利用者とはもちろん要介護者なのだが、実際のエンドユーザーは介護家族であり、医療ケースワーカーやケアマネジャーになっている。
関澤:業界が一致団結して共通のサービス水準を作る。一筋縄ではいかないが、全国の介護タクシーグループでネットワークを構築することで実現できるはず。
鎌倉:良い移送サービスを受けている利用者は顔色が違う(穏やかな顔になっている)と医療ケースワーカーから聞いたことがある。アクトは月に1回の定例会で技術向上のための研修を行うなど、命にかかわる患者搬送の現場でレベルの高いサービスを提供できるよう活動している。
介護タクシーは総合的な移動のサポーターへ
関澤:いま全国で介護タクシーグループと行政の災害協定の締結、コロナ患者の搬送など、新しい動きが出てきている。介護タクシーが始まって20年、もはや介護だけではない、移動の総合サポーターである介護タクシーの立ち位置をどうするか、利用者目線で考えていく必要がある。
鎌倉:それには私たちがもっと自信と社会的責任感を持たなくてはダメ。車いすだけでは難しい方の移送を通じて、救急車の適正利用にまで関わっていかなければならない。
関澤:政策的な位置付けにおいて、我々の仕事は国土交通省ではなく厚生労働省管轄であるという声も上げていきたい。
縦割り行政の弊害
タクシー会社(UDタクシー)や福祉有償運送との関係について、現状をお聞かせください。
鎌倉:JPN TAXIはどうしてああいう設計になったか分からないが、失敗のような気がする。ただあの車で対応可能な方については積極的な利用をお願いしたい。
関澤:ノアやヴォクシーで十分に対応できると思うが、タクシー業界内での事情がいろいろあるようだ。あとは障害者割引について、お客様の大多数が適用となるため、介護タクシーに障害者割引を適用するのはおかしいと思う。
鎌倉:介護タクシーには2つのジャンルがあって、一つは私たちのような民間救急患者搬送をメインとする事業者と、もう一つは車いす移動支援や介護保険適用の移送を行う事業者だ。この2つでカバーできない、公共交通が整備されていない地域で展開しているのが、NPOなどが行っている福祉有償運送になる。
こうしたサービスが続いているうちは、行政が地域の高齢者・障がい者の移動がサポートできていると認識する。ギリギリなんとかやれているという現状なのに、ダメになるまで手当てをしようとしない。だから交通担当部署は福祉移送の現状を知らないことが多い。
関澤:その通り。行政ですら介護タクシーを理解していないことがある。福祉有償運送と混同されることもある。介護タクシーは交通、医療・介護・障害福祉、救急と複数の省庁を横断して活動している。厚労省に至っては省内でも縦割り現象が起きている。縦割り行政を解消して総合的な判断をする行政機関が必要だ。
鎌倉:行政だけでなく、医療現場との連携も難しい。高い壁がある。患者等搬送事業者は医師や看護師と違い、医療行為を行うことはできない。しかし、円滑な患者搬送を行うために医療の知識が必要になる。私たちが連携を求めることに対して、愛知県では医療従事者の壁があるように感じる。
関澤:民間救急と医療現場の役割を明確にしなければ解決できない問題だ。厚労省・総務省に求めていくべき。地域によっては町の医療を介護タクシーが支えているという認識ができている。良い関係ができている地域から声を上げていくと良いのではないか。
新型コロナウイルス感染症の影響で、最近は民間救急がメディアで紹介されるようになりましたが、介護タクシーについてはまだまだ認知が足りない気がします。
鎌倉:広報が全然足りていない。業界紙だけでなく、一般のメディアでもっと取り上げてもらいたい。
関澤:業界紙も最近は少し変わってきている。かなりキツイことを言っても記事にしてくれることが多くなった。あとは団体として、これからもっと一般紙に取り上げてもらえるよう活動していく。
地域ごとに介護タクシー事業者のレベルを底上げする必要がある
介護タクシーは料金が高い、という声についてはどう思われますか?
鎌倉:利用頻度の高い方はベッド・ツー・ベッドの介助サービスに対して、料金相当の評価をいただいている。機会の少ない転院搬送については、利用者へ医療ケースワーカーから適正価格であるということを説明してもらえれば評価が変わるはず。
関澤:家族ができないことをやっている。だから、お金がかかるということを医療従事者にも理解してもらいたい。
鎌倉:価値を理解してもらったとしても、低所得者にとってハードルの高いサービスであることには違いない。生活保護というセーフティネットもあるが、その前段階で国や行政に税金で手当てしてもらいたい。
関澤:福祉タクシー券の支給額が自治体によって大きく異なることも問題だ。例えば大阪の支給額は東京の5倍以上で、大きな差がある。行政は介護予防の効果を数値化できず、福祉の予算を削減する方向で動く傾向がある。
鎌倉:名古屋市もそうだが、福祉タクシー券は障害者施策であって高齢者施策ではない。地域の高齢者に対しても介護タクシー利用の支援が必要だが、交通と福祉だけでなく、障害福祉と介護福祉の間にも見えない壁が存在している。
関澤:そういった課題を解決するために地域の事業者がまとまり、例えば協同組合の形式をとるなどして、地域の事業者全体が底上げして取り組んでいく必要がある。
タクシーとは別の業界を作らないといけない
鎌倉:介護タクシーの活動が適正に評価されるためには、タクシーとは別の業界を作り出す必要がある。私たちはドア・ツー・ドアの交通機関ではない。むしろ車に乗る前、降りた後の方が大切で、時間がかかるサービスを提供している。タクシーとはサービスの仕組みが違うことは明らかだ。
関澤:新しいネーミングも必要。「介護」「タクシー」という言葉は既に別の意味を持っている。「介護タクシー」というネーミングが我々のサービス認知向上の妨げになっているのかもしれない。
鎌倉:その通り。今のままだと料金もサービスもバラバラで、お客さまが安心して利用できない。持続化が困難な、安かろう悪かろうのダンピングを止めなくてはいけない。アクトでは質の高いサービス水準を維持するために、入会のハードルを下げることはしていない。少数精鋭という体制になっている。一つのミスでグループ全体の信用を損なってしまうからだ。
ただ、国や行政、社会に対して私たちの活動を知ってもらうには、モノ言う大きな団体が必要。関澤さんにはこれからも頑張ってもらいたい。
関澤:利用するお客様と業界全体の発展のために、鎌倉さんにもぜひ力を貸してほしい。
対談の最後に、コロナ患者搬送などを担当する「アクト特別班」で活躍する迫田さん(写真中央)にも参加いただき、コロナ搬送の状況を伺いました。名古屋市との契約も延長が決まり、厳しい状況がしばらく続くようです。迫田さんは現在、安全を最優先にご家族と離れて生活をしていて、逼迫する医療現場のサポートをしています。
鎌倉さん、関澤さん、お二人のような方が介護タクシーの未来を拓き、迫田さんのように若い世代がしっかりとバトンを引き継いでいく。私たちが介護タクシーをより便利に利用するためには、全国10,765事業者(R2.3現在)をまとめて、大きな力を作ることができる人が必要なのだと感じました。