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介護タクシーコラム

医療と医療をつなぐ「民間救急」の勉強会

介護・医療

医療搬送の勉強会風景

新型コロナウイルス感染症のまん延で注目されている、民間救急(患者等搬送事業者)が中心となって集まり、勉強会を開催しました。十分な感染対策のもと、東京都足立区の大きなホールに15名ほどの参加者が集まり、広い空間を使って講義と実技が行われました。

テーマは「医療搬送機器の取扱い」と「感染症対策」

勉強会のスケジュール表

今回集まったメンバーは、事業者団体・グループの枠組みを超えて有志で集まった方々です。高まる医療搬送需要から、より正確で高い知識と技術を習得したいという意識の高さが感じられます。

生体情報モニタと人工呼吸器を使った患者搬送

人体模型と医療搬送機器

前半の講義は東京メディ・ケア移送サービス代表の長井さんによる、生体情報モニタと人工呼吸器についての説明と実際に行われた搬送の事例検討でした。 長井さんは臨床検査技師の資格を持ち、医療機器メーカーで開発に従事していた方です。今回は自身の搬送実績をもとに、患者等搬送乗務員(民間救急のドライバー)にとって必要な医療機器の取り扱いについて説明しました。

人工呼吸器について説明するIMIの担当者
搬送用人工呼吸器についての講義
現場の経験を踏まえて説明する長井さん
長井さんとアイ・エム・アイの担当者

さらに今回はゲストとして人工呼吸器をはじめ多くの医療機器を取り扱う、株式会社アイ・エム・アイの担当者が参加して、人工呼吸器の取り扱いについて専門的な講義を行いました。

搬送事例をもとに対応を検討

事例検討会

医療搬送機器の説明のあと、長井さんが実際に行った搬送事例の紹介があり、対応についての質問やディスカッションを行いました。ここでは搬送事例のタイトルだけ記載します。

  1. 在宅用人工呼吸管理を継続した搬送
  2. 人工呼吸器搬送
  3. 転院のための長距離搬送
  4. CCUからの長距離搬送
  5. 在宅酸素(HOT)患者の入院搬送
  6. 「死戦期呼吸」って何?

人工呼吸器搬送に伴う搬送事例、生体情報モニタが有用であった搬送事例、高濃度酸素投与下での搬送事例という3つのカテゴリで各事例を掘り下げて検討を行いました。私にとっては難しすぎる内容でしたが、参加事業者からは質問や意見が多く出ていました。

患者の身体状況、移動目的(転院・一時帰宅・退院 など)に応じて最善の搬送方法を選択するためには、医療従事者との連携と、基本的な医療の知識が不可欠だということがよく分かる内容でした。

利用者と自身を守る感染症の知識

感染症の講義

後半は感染症対策の講義と防護服着脱の実技演習でした。新型コロナウイルス感染症がまん延している最中、これまで違った緊張感が会場を包みます。最初は資料を使って感染症の分類についてなど、基本的な説明があり、そのあと防護服の着脱を行いました。

講師による説明
防護服の着脱方法を説明
参加者にガウンを着せて説明
希望者全員が防護服の着脱を行いました

参加者の中にコロナ患者搬送を行っている方もいらっしゃったので、初めての方へ着脱方法を丁寧に説明していました。コロナ患者搬送を行っていない事業者にとっても、今や感染リスクと隣り合わせの状況です。万が一の事態に備えて、みなさん真剣に取り組んでいました。

救急車の適正利用で需要が高まる民間救急

1回の出動に4~5万円の費用がかかる救急車。現在その利用方法が社会問題となっています。緊急性が低い依頼に対応することで、命の危険がある方への対応が遅れてしまう、間に合わなくなってしまう可能性があるという重大な問題です。

総務省消防庁は、緊急性がなく自分で病院に行ける場合は、救急車以外の交通機関等を利用することをお願いしています。出動にかかる行政の費用負担以上に、人の命にかかわることだからです。このような社会背景において、民間救急(患者等搬送事業者)の需要は高まっています。また新型コロナウイルス感染症により、さらにその役割が注目されています。


勉強会会場入り口

民間救急に従事する患者等搬送乗務員は、医師や看護師のように医療行為を行うことができません。それでも医療と医療をつなぐ移動サービスとして、相応の知識と技能を習得する必要があることを、今回の取材で学びました。

それでも地域によっては、医師や看護師が緊急を要しない方に救急車の利用を勧めたり、消防が患者等搬送事業者の認定に消極的なところもあるようです。これから過疎化・高齢化がさらに進み、救急車の出動費用だけでなく、介護保険の負担も大きくなることは誰の目から見ても分かる事です。なぜこのような現象が起きているのか、私には理解できません。

患者の緊急性を判断するトリアージの訓練が十分ではないという声も聞きます。地域によっていろいろな事情があるのだと思いますが、行政はもう一度、何が一番大切なのかを考え、救急車の適正利用が掛け声だけで終わらないよう取り組んで欲しいです。

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著者紹介

滝口 淳(ライター)
タクシーに関わる仕事をしながら、介護タクシー情報の分かりにくさを実感し、2017年に情報サイト「介護タクシー案内所」を立ち上げる。全国の介護タクシー事業者・タクシー事業者を訪問。サイト運営を通じて介護福祉タクシーの現状を広く伝える活動をしている。

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