介護タクシーコラム
災害要配慮者を安全に移送する協定締結(東京・葛飾区)

2025年(令和7年)5月15日、東京都葛飾区と一般社団法人福祉移送ネットワークアイラス、株式会社ライフリンクスの3者が「災害時における緊急輸送業務に関する協定」を締結しました。なんと今回、メディアとして協定締結式を取材させていただきました。葛飾区で生活する人たちにとって、災害協定がどのように役立つのか。当日の様子をレポートします。
これから起こり得る災害に備えて

高齢者などの避難行動要支援者を安全な場所へ移送
突然ですが「災害要配慮者」という言葉をご存知でしょうか?災害が起こる前の備え、発災時の避難行動、避難後の生活などの各段階において特に配慮を要する方のことを指し、高齢者や障がい者、乳幼児、妊産婦、外国人などがこれに該当します。
今回の協定は災害が起きた時、または災害が起きそうな時に、高齢者など要配慮者の中でも支援が必要な方(避難行動要支援者)をアイラスグループの介護タクシー事業者がご自宅や入居施設などから安全な場所へ緊急輸送を行なうという内容です。
葛飾区は半分以上の土地が海抜ゼロメートル地帯

葛飾区の標高図(葛飾区HPより)
葛飾区は水害で甚大な被害が発生する可能性がある場所
開式の挨拶と列席者紹介が終わると、葛飾区の災害要配慮者支援担当課長より今回の協定についての説明がありました。葛飾区は区の半分が東京湾の海面より低い海抜ゼロメートル地帯であり、水害発生時に避難行動要支援者の輸送支援がとても重要であるというお話でした。確かに標高図を見ると葛飾区の半分以上が海抜1m未満であることが分かります。

協定書の確認後、3者による記念撮影
よく行政のホームページやニュースで見る協定締結の記念撮影です。左からアイラスグループの木本理事長、葛飾区の青木区長、アイラスグループの荒井副理事長、ライフリンクスの山田社長です。記念撮影を撮影するというレアなショットをお届けします。
葛飾区長・アイラス理事長・ライフリンクス社長による挨拶
記念撮影のあと、協定3者代表による挨拶がありました。十分な協議を重ねて締結した協定なので、それぞれ課題を共有し、各々の役割を意識した内容の挨拶でした。

青木 克德(あおき かつのり)葛飾区長より
— これまで葛飾区は水害対策をしっかりやってきた。荒川、江戸川、中川、新中川の堤防強化も完了している。しかし台風も年々大型化しており、上流が氾濫して被害が広がる可能性もある。災害発生時には災害弱者、特に高齢者への配慮が必要。まさに移送が重要になってくる。
高齢化が進み、現在区内で100歳を超える方が220名生活している。もちろん元気な方もいらっしゃるが、移動に不便を抱えている方もいる。協定締結を機に、多くの方が安心して避難対策ができるよう、アイラスグループ並びにライフリンクスと訓練をしっかり行っていきたい。

木本 誠二(きもと せいじ)一般社団法人福祉移送ネットワーク アイラス理事長より
— 私は生まれも育ちも葛飾区で、小さいころから葛飾区がゼロメートル地帯であることを教わっていた。大丈夫なのか?と思いながら60年以上を過ごしてきたが、3.11(東日本大震災)で水が何よりも恐ろしいことを痛感した。葛飾で災害が起きる、起きそうだということがあれば、アイラスグループの力を結集して全面的に協力させていただく。

山田 敏秀(やまだ としひで) 株式会社ライフリンクス 代表取締役より
— 当社はアイラスグループのコールセンターと事務局業務を担っており、アイラスとは協力関係にある。今回の協定締結で、アイラスグループは葛飾区を含め3つの協定を結ぶことになった。いつ訪れるか分からない災害に対してしっかり準備をして、連携を強化し、迅速かつ円滑に移送ができるよう尽力していく。
想定を超える規模の災害に備えるために

3者の挨拶が終わり、しばらく懇談の時間がありました。そこでは青木区長から区内の災害対策状況の説明があり、各方面で相当な整備が整っていることが分かりました。しかし、学識者から想定の何倍もの災害が発生するという予測もあり、対策に終わりはないのだと、あらためて感じました。
アイラスグループの荒井副理事長は、災害発生時に移送の依頼を受けた自身の経験をもとに、葛飾区とアイラスグループのように自治体と移送事業者の協定締結、連携、情報共有が大切だということを訴えていました。その点において、訓練にもしっかり予算付けをしている今回の協定には、大きな意義があると思いました。
締結式は約20分でしたが、葛飾区の災害要配慮者、避難行動要支援者に対する取り組みの姿勢が伝わってくる貴重な時間でした。締結式終了後、すぐに葛飾区の担当者より訓練の実施やアイラスグループの会議への出席について相談があり、動き出しが早いことに驚きました。

葛飾区内のアイラスグループ加盟事業者数は22事業者、都内の事業者数は100を超えます。ライフリンクスが基盤となるコールセンターを運営し、平時よりグループ全加盟事業者とコミュニケーションが取れているからこそできる災害時の輸送支援。いざという時の備えに、このような取り組みが全国にもっと広がっていくことを期待しています。