介護タクシーコラム

日本初「医療モビリティ」がテーマの展示会に密着!

介護・医療

医療モビリティ博2025in愛知テープカット

みなさん、医療MaaS(マース)という言葉をご存知でしょうか?医療MaaS(Mobility as a Service)とは、移動手段に医療機器や通信機器を組み合わせることで、患者が病院に行かなくても医療を受けられるようにする新しい仕組みです。横文字が多くて分かりにくいですよね…。今回、8月22日・23日に開催された、医療モビリティ博2025 in愛知に実行委員として参加しましたので、イベントの様子をレポートしたいと思います。

日本で初めて「医療モビリティ」をテーマに開催された展示会

モリコロパーク内にあるジブリパーク

ジブリパークを併設する広大な万博会場跡地

医療モビリティ博2025 in愛知の会場は、あのジブリパークを併設する愛・地球博記念公園(通称モリコロパーク)。ジブリパークに興味津々でしたが、今回は遠くから写真を1枚だけ…。医療モビリティ博の会場は、モリコロパークの入り口から少し離れた、観光バス北駐車場に設営されました。

医療モビリティをテーマに開催されたイベントは日本初ということで、開会式には多くの方が参加され、赤澤亮正 経済再生担当大臣・防災庁設置準備担当大臣などからお祝いのメッセージもありました。

全国から医療MaaS車両や関連サービスが集結

医療モビリティ博会場風景

会場には秋田県から徳島県まで、全国で主要な医療MaaS車両と関連サービスが集まりました。車両やコンテナがなんと28台!ここまで多くの車両を見学できる機会はこれまでありませんでした。気になった車両やサービスを紹介します。

診察・検査とドローン輸送が可能:M-aid「MedaaS」

M-aidのMedaaS

株式会社M-aidの医療MaaS車両「MedaaS(メダース)」は、オンライン診療・検診と、医薬品や検体輸送ができるドローンポート搭載の車両を展示、車いすやストレッチャーでも利用しやすい、多くの機能が備わった医療MaaS車両です。

動く診察室:トヨタ車体「メディカルムーバー」

メディカルムーバー

すでに山口市や山梨市で導入されている医療MaaS車両「メディカルムーバー」は、トヨタ・ハイエースをベースに開発されました。こちらもリフト付きの車両で、可動式手すりなど、ハイエースウェルキャブの設備はそのままに、大型モニターや非接触バイタル測定、遠隔診療などが可能な「動く診察室」です。

歯科医療に特化した車両:オーガイHD「O-Gai(オーガイ)」

移動型歯科診療車O-Gai(オーガイ)

歯科診療に必要な設備が揃ったトレーラー「O-Gai(オーガイ)」は、災害時などで応急的な義歯を作ることができる、3Dプリンターを搭載している医療MaaS車両です。企業・学校への出張検診、地域イベントなどで活躍しています。

災害時の移動型処方箋薬局:岐阜薬科大学「モバイルファーマシー」

モバイルファーマシー

災害時に、薬剤師が直接現地で服薬指導や医薬品の提供を行えるよう開発された「モバイルファーマシー」は、VANTECH(バンテック)社のキャンピングカーがベースの医療MaaS車両です。車内には調剤カウンターや冷蔵保管設備など、通常の薬局と同等の機能を備えています。

モバイルファーマシーの車内

現在この車両は、災害対策車両として位置づけられていて、薬剤師法などの法規制により平時の利用はできない車両ですが、医療過疎地での実証実験などに活用されていて、平時の利用についても期待されています。

能登半島地震で活躍した医療用コンテナ:愛知医科大学病院「CoMU®(コミュ)」

医療用コンテナ「CoMU®」

2基を連結して1つの診療ユニットとして活用できる可搬式医療用コンテナ「CoMU®(コミュ)」は、新型コロナ対策の仮設医療ユニットとして開発されました。自走型の医療MaaS車両よりも、より固定化した診療拠点として被災地や医療過疎地での活躍が期待されています。実際に能登半島地震では被災地で、7週間に渡り活動しています。

日常生活の支援や訓練を実施:東京都立大学「リビングラボ」

トレーラー「リビングラボ」

会場内に広い体験スペースを構えた、東京都立大学のトレーラー「リビングラボ」は、各種ロボット・計測システムを使って、身体機能や認知能力を計測・推定して、日常生活の支援や訓練が行える医療MaaS車両です。リアル脱出ゲームなどのアトラクションと一緒に、楽しみながら自分の身体のことを知ることができます。

ドローンやAED、その他多くの車両・サービスを展示

エアロセンスのドローン

車両以外では医療物資や医薬品、検体を運ぶために必要なドローンの展示がありました。ドローンの操作ができる飛行体験エリアは、たくさんの人で賑わいました。このように医療を届ける車両と医療機関を結ぶ輸送サービスも、医療MaaSの大切な役割を担っています。

AEDレンタルサービス

リモート点検を行いながらAEDをレンタルする「AEDフルサポートレンタル」(AEDレンタルサービス)。現在は普及が広がっているAEDですが、2005年の愛知万博では、会場内に300m間隔でAEDが設置され、会期中に心停止を起こした5人のうち4人が救命されたことが、普及の後押しになったそうです。AEDも医療MaaSに欠かせないアイテムです。

大人も子ども楽しめる!大人気の消防車・救急車エリア

消防車に乗った子どもの写真を撮影する消防隊員

子どもに大人気だったのが、消防車・救急車エリアです。日本に2台しかない全地形対応車(ATV)で、日本で唯一の災害対応特殊車両「レッドサラマンダー」には、写真撮影の行列ができるほどの人気ぶりでした。その他、大型の救急車よりも先に現場へ向かうことができる小型救助車やポンプ車、救急車など、4台の消防関係車両を展示しました。

レッドサラマンダー

レッドサラマンダー

救急車とポンプ車

救急車とポンプ車

数量限定、消防カードをプレゼント

消防カード

今回、医療モビリティ博に来場された方へ、先着順・数量限定で消防カードをプレゼントしました。猛暑の中、消防服を着て写真撮影をしたり、車両が会場から撤収するまで家族で待っていたり、火災・災害時に活躍する消防車両の人気の高さに、あらためて驚かされました。

災害時だけでなく、平時の運用も必要

さまざまな医療MaaS車両

医療MaaSは、災害時に有効なツールとして話題になることが多いのですが、車両や機材が高額な医療MaaS車両は、災害時以外にも活躍の場がないと、財政的に導入が厳しくなります。また、災害時に備えた訓練も必要なため、どのようにして平時に運用していくかが課題となっています。

過疎・高齢化で注目を集める医療モビリティ

医療MaaSが抱える課題の解決策のひとつとなっているのが、医療過疎地域、交通空白地での展開です。今回のイベントのテーマ、患者が移動する医療から、患者のもとへ届ける医療への通り、医療が十分に行き届いていない地域に医療を届ける、という平時の医療MaaS運用が、過疎・高齢化に伴い、各自治体や医療機関から注目を集めてきています。

近くに来た医療へアクセスするために

東京メディ・ケア移送サービスとmairu mobility

今回のイベントでは、民間救急(患者等搬送事業者)・介護タクシー車両として、東京メディ・ケア移送サービス(ワン・ツウ・ワン パートナーズ)とmairu mobility(マイルーモビリティ)が車両展示を行いました。

医療MaaSは、患者の自宅まで医療を届ける往診(訪問診療)とは異なります。地域のコミュニティセンターなどに到着した医療MaaS車両へアクセスするために、民間救急や介護タクシーの力が必要な方もいらっしゃいます。そのような方のために、民間救急・介護タクシーも医療MaaSの一員として、地域に貢献してもらいたいです。


民間救急・介護タクシーが医療MaaS車両まで患者を送迎する、オンライン診断、検査の結果、より詳しい検査が必要となった時に、そのまま病院まで送り届ける。国土交通省が進める交通結節点(地域交通が交わる場所)事業と連携することで、交通と医療が交わる、医療MaaSステーションのようなものができると、移動にお困りの方も近くの医療にアクセスすることができるようになります。これからの医療MaaSの進化に大きく期待しています。

おまけの1枚

ラフタークレーンで会場設営

前日準備から3日間、ものすごく暑い日でした。出展者、スタッフのみなさま、本当にお疲れ様でした。写真は設営の一幕です。これほど大規模なイベントは久しぶりでした。来年は…屋内開催がいいなぁ。

医療モビリティ博2025 in愛知 公式ホームページ
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著者紹介

滝口 淳(ライター)
日本搬送学会 政策研究センター主任研究員。2017年に情報サイト「介護タクシー案内所」を開設。全国の介護タクシー、タクシー事業者、患者搬送事業者を訪問。サイト運営を通じて介護福祉移送・患者搬送の現状を広く伝える活動をしている。

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