介護タクシーコラム
UDタクシー試乗会レポート(前編)
梅雨も明け夏本番の7月上旬、横浜市にある神奈川運輸支局で認定NPO法人かながわ福祉移動サービスネットワーク(かながわ移動ネット)主催のUDタクシー試乗会が開催されました。
車いす利用者、地域の特別支援学校の保護者、介護福祉事業関係者、国交省・神奈川県・横浜市の担当者、神奈川県タクシー協会横浜支部、そしてトヨタ、日産各社の担当者など、あわせて50人近い参加者が集まった、とても意義のある試乗会でした。
今回のコラムでは、前編・後編に分けて試乗会と試乗会後におこなわれた意見交換会の様子をレポートします。
目 次
UDタクシー4車種が揃う
自分や家族の車いすでどの車種に乗車できるのか
当日はトヨタ自動車からJPN TAXI、エスクァイアの2台、日産自動車からはNV200、セレナe-POWERの2台、計4台が用意されていました。国土交通省のUD認定を受けているのはJPN TAXIとNV200、セレナ(e-POWERはUD車認定ではありません)の3車種ですが、車いすのままアクセスできるという点で、UD仕様のタクシーとして試乗します。(追記:2020年5月現在、日産セレナは標準仕様ユニバーサルデザインタクシー認定から外れています)
ふたつのグループに分かれて試乗
はじめにかながわ移動ネットの清水弘子理事長より挨拶があり、かながわ移動ネットの取り組みについて紹介がありました。そのあと試乗会のスケジュールの説明がありました。参加者が多いため2グループに分かれてトヨタ、日産の車両を交代で試乗することになりました。
1時間程度の試乗会の後は、神奈川運輸支局内で参加者同士の意見交換会が行なわれます。車いす利用者のみなさんの声を聞くことができるとても貴重な機会です。
車いすサイズと乗車準備に注目(JPN TAXI)
トヨタの担当者2名で約5分間
JPN TAXIはスロープのセットに時間がかかることが課題といわれています。今回トヨタ自動車の男性担当者2名による実演がありました。手元の時計で計測した所要時間は約5分。スロープを出したり車内で車いすを90度回転させたり、慣れないドライバーだと時間がかかるのは当然だと思いました。
他車種に比べ乗車できない車いすが多い
リクライニング車いすや電動車いす、バギーなどいろいろな種類の車いすを試してみたところ、4車種のうちJPN TAXIが最も乗車できない車いすのタイプが多いことが分かりました。その反面、自走式の車いすで乗車体験をした方からは「思ったより天井が高く、広々としている」という声もありました。車種によって一長一短、特徴を把握して利用したいですね。
同乗者が横に座れるのは利点
JPN TAXIで良いところは、介助者が車いすの横に座れるという点です。特別支援学校の保護者からは「吸引など横から介助できる方が良い」という声もあり、この点においては利用者のニーズに合っていると思いました。また、車いすの固定場所が水平なので、安定感があるという意見もありました。
試乗会には介護福祉事業所や介護タクシー事業者の方も参加していて、スロープなしでの乗車を試していました。高さ約30㎝の階段介助は、プロの方でも大変そうでした。やはり安全を考えるとスロープは必要だと感じました。
バギーも乗車可能な広さ(エスクヮイア)
ニールダウンでスロープの傾斜も緩く
乗降時に車高が低くなる「ニールダウン式」のエスクヮイアはスロープの斜度も緩くなり、より乗降が楽になります。エスクヮイアのスロープ傾斜角は9.5度、JPN TAXIが12.4度(スロープの長さと車高から算出)なので、より緩やかなのが分かります。
ちなみにバリアフリー新法で規定されている車いすスロープの勾配は1/12(4.8度)です。乗降介助が必要な理由が分かります。
車いす固定時に身体が斜めに・・・
高さのあるバギーで乗車できるか検証もしてみました。ギリギリですが乗車できます。ただ車いす固定時の身体の角度がどうしても上向きになってしまうので、障がいによっては長時間の移動は難しくなります。これはJPN TAXI以外の3車種に共通する点です。
乗り心地よりアクセス重視(NV200)
第1号のUD認定タクシー
日産NV200バネットは国土交通省認定第1号のUDタクシーです。バックスロープで雨天時なども濡れにくく、乗車準備も短時間で乗り降りしやすいのが特長です。ただベースが商用バンといわれる車種なので乗り心地がどうしても乗用タイプの他3車種に比べ劣ってしまいます。アクセスの良さと乗り心地・・・用途によって賢く使い分けたいですね。
電動車いすでも乗車可能。同乗者は右側からの降車に注意!
電動車いすで乗車もできました。背の高い大人でも天井には若干の余裕があります。介護タクシー(福祉限定)でも採用されている車種だけあって、リクライニング車いすでも角度を調整すれば乗車できるそうです。
あと注意が必要なことがひとつ。左ドアからの乗降であればステップが出てくるのですが、右側から降りる場合はステップがありません。うっかりステップがあるつもりで降りて足を挫いたりしないように。あると思った階段がなかった時の衝撃と同じ感覚です。
介護タクシーでも使われている車種の電気自動車(セレナe-POWER)
デビューして間もない注目の車種(取材当時)
日産セレナは介護タクシー事業者も導入している車両です。2018年3月にセレナe-POWERがリリースされてから、一度乗ってみたいと思っていました。ニールダウン方式でスロープは長めの1,450㎜、スロープの展開がなくても車高を調整できるのは、立位可能な方にとってうれしい機能です。
100%電気で走るのでエンジン音などがなく、快適な移動ができます。車いすを固定する3列目シートの位置でも会話の声が聞き取りやすいのではないでしょうか。また車いす1台+同乗者3名の計4名が乗車できるのも大きな特長です。
車いす利用者のニーズに加え歩行が困難な方にも配慮した設計
私たちは外出する時、カバンやリュックにいろいろな物を入れて出かけますよね。今回試乗会に参加してあらためて気付いたのは、車いすの方も荷物を持っている場合があるということです。セレナe-POWERに大きなリュックを背負った電動車いすの方が乗車してみましたが、無事乗車できました。
助手席まで渡っている乗降ステップも足腰の弱い高齢者などに優しい仕様です。車いす利用者以外の方への配慮も行き届いていますね。乗り心地が良いと評判の車種なので、タクシーとしてデビューしたら(取材当時)ぜひ利用してみたいです。
試乗会では参加者のみなさんが自分や家族の車いすが乗車できるのか、どの程度便利に利用できるのか。という視点で試乗をしました。実際に走行はしていないので本来の乗り心地については未知数ですが、みなさん自分や家族が利用することを真剣に考え、乗車体験をしていました。
超高齢化社会を迎え、これから高齢者や障がいのある方の移動ニーズがもっと多様化していきます。タクシーがドアツードアの交通機関として果たすべき役割は、まだまだたくさんあるのだと実感しました。もちろんこれは介護タクシー(福祉限定)も一緒になって取り組むべき課題だと私は思っています。