介護タクシーコラム
くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2019に参加して
突然ですがくらしの足をみんなで考える全国フォーラムというイベントをご存知でしょうか?この度いろいろなご縁から初めて参加してきました。あらためてどのようなイベントなのか、参加して感じたことと合わせてご紹介したいと思います。
目 次
くらしの足の課題解決に取り組んでいる人や団体が全国から参加
地域や立場を越えて移動を考える。
くらしの足をみんなで考える全国フォーラム(以下「くらしの足フォーラム」)は、通院や買い物など、日常生活で必要な移動に不自由を抱える人が増え続けている問題に対して、一生活者からボランティア団体、交通事業者、福祉・介護・医療従事者、移動サービス関連企業、行政職員、政治家、研究者が年に1回集まって、活動の発表や情報交換を行う場です。
要するに、移動に困っている人たちが困らないように、何とかしよう。と思って活動している人たちの集まりです。今年も347名が参加して、講演、討論会、グループディスカッションなどが行われました。
ふだん会えない人たちと話ができる。
移動に困っている人の困り方や困り度合いは地域や人によって異なります。バスやタクシーはそれぞれ役割が異なります。介護タクシーはもっと特殊です。どこで、誰の、どんな困りごとの解決に取り組んでいるのか、自分たちの活動範囲を越えたところで頑張っている人たちと話ができるのも、くらしの足フォーラムの大きな意義です。
本音で語り合おう、知り合おう、そしてこれまでの殻を破ろう!
活動にはさまざまな殻がある。
今回のフォーラムの副題は本音で語り合おう、知り合おう、そしてこれまでの殻を破ろう!でした。このテーマはひとつにつながっていて、殻を破らないと本音でなんて語り合えない、知り合えない。ということでもあると思います。
私が全国の介護タクシー、一般タクシー事業者とお会いして感じる殻はふたつ、制度の殻と事業者自身の殻です。制度の殻を破るには、行政に現場の声を上げる事が必要。そして現場の声をより大きく、しっかりと届けるには同業者や関連事業者が殻を破り、本音で話し合える環境を作ることが必要なのです。
2日間で殻を破る!
2日間の開催期間中、参加者がお互いの殻を破るために発表者の声に耳を傾け、時には激しく議論し、理解し合い、何かを得ようと努力していました。私が感じた2日間の大きなパワーを上手く伝えられないのが残念です。
お出かけを豊かにする「のりしろづくり」
連携で足りない部分を補完する。
くらしの足フォーラムでは話題のMaaS(Mobility as a Service)や互助による輸送サービス、交通事業者の雇用対策など、じつに様々なテーマで講演・討議が行われました。その中でも特に印象に残ったのはのりしろづくりについてのディスカッションでした。
ディスカッションでいう「のりしろ」とは、移動サービスが不十分、または届かない領域を関係する人たちが自分たちの領域を広げて(=連携して)のりしろのように重なり合う部分を作ることを指していて、登壇者がそれぞれの立場からのりしろづくりについて発表しました。
魂の入った外出支援ができているか?
連携という言葉は最近よく耳にしますが、なにを以って連携できたと言えるのでしょうか。そのヒントはNPO法人全国移動サービスネットワーク理事長の中根 裕さんがおっしゃっていた魂の入った外出支援にあると感じました。
制度や仕組みは大切ですが、もっと大切なのは思いであり、魂なのです。制度や仕組みを作る人たちに魂がないというわけではありません。ただ一番熱い魂を持っているのは移動に困っている方と直接触れ合い、その方たちの心の声を聴いている現場のサービス提供者なのではないでしょうか。
たくさんの事例紹介と自由な意見交換
ポスターセッションで46の事例紹介
出展者が活動や取り組みの内容をポスターにまとめて発表するポスターセッションでは、アプリなどのシステム、ITサービスからコミュニティバスの運行、NPO団体による福祉有償運送、利用促進施策、子育てタクシーまで、多岐にわたる取り組みが展示され、参加者は熱心に会場を巡っていました。
オープンカンファレンス、グループディスカッションで白熱!
参加者同士が最も深く交流し、白熱したのがフォーラム2日目に行われたオープンカンファレンスとグループディスカッションでした。みんなのおでかけ応援サイト「介護タクシー案内所」の編集者として気になった話題は、やはりお出かけ促進についてでした。
お出かけしたくなる仕組みづくり、外出したくなる場所についての議論はとても興味深かったです。外出しやすい仕組みづくりについては様々な場所で研究、実践されていますが、外出したくなる仕組みづくりという考え方こそ、今後必要になってくるのだと感じました。
くらしの足を担うのは社会全体
それぞれの立場で熱く語る。
くらしの足フォーラムの最後を締め括ったのは交通事業者、行政、NPO団体、研究者の4名がパネラーとして登壇した「くらしの足 白熱討論」でした。くらしの足の課題解決に取り組むという目的は同じでも、立場が違うと考え方がここまで変わるのかという驚きと、それぞれが持っている危機感や使命感が伝わってくる討論会でした。
需要を増やし供給が行き届くように社会そのものを変えていく。
2日間の暮らしの足フォーラムを終えて感じたことは、くらしの足の課題は移動に関わる人たちの問題だけではないということ。需要に対して不足する供給をどうするのかという視点と同時に、効率良く供給するために需要をどう調整するか、社会の在り方をどうするのかという考え方も必要なのだと感じました。
例えば9:00~10:00に集中する介護タクシーの通院利用。車を増やすということと同時に、病院や施設の営業体制を変えることで需要を平均化できないか、ということも考えるべきです。
「そんなの無理」では何も始まりません。お出かけしたくなる仕組みづくりも然り。くらしの足の課題はもっと多くの立場から、多くの目で、社会全体が取り組む問題なのだと思います。
介護タクシーは利用者の命を支える「くらしの足」
介護・福祉・医療のすべてに関わる移動サービスは介護タクシーだけ
少し残念だったのは、こういう場所に介護タクシー事業者がいなかったこと。介護タクシーは最も移動に困っている人を運んでいる交通事業者です。そして民間救急(患者等搬送事業)として医療にかかわる搬送を行なう事業者も多い。まさに命を支えるくらしの足なのですから。
利用者の声を発信して欲しい。
介護タクシーには、国や自治体の統計調査には出てこない利用者の生の声をぜひ発信していただきたい。ほとんどが個人事業主という業界の特性を考えると簡単なことではないと思います。しかし超高齢化社会の日本において、交通、介護・福祉、医療のすべてにかかわるスペシャリストとして、その存在意義を示して欲しいです。
おでかけしたい、させてあげたい。と誰もが思える社会をつくるには、事業者の経営努力、助け合い支え合う地域社会、そして行政の的確な制度構築と適切な支援。これらがすべて連携する必要があるのだと、くらしの足フォーラムを通じて再認識することができました。
くらしの足をみんなで考える全国フォーラム2019の開催記録はフォーラムのHPからpdfでダウンロードできます。2020年は新潟県の長岡市で10月11日(日)・12日(月)に開催されます(追記:コロナの影響でオンライン開催に変更となりました)。ご興味のある方、利用者の目線から声を届けたいという方、ぜひ参加されてみてはいかがでしょうか。