介護タクシーコラム
UDタクシー試乗会レポート(後編)
前編でご紹介した試乗会が終了した後、神奈川運輸支局内の会議室で参加者の意見交換会が行われました。参加した車いすユーザー、障がい者のご家族、タクシー会社、車両メーカー、行政それぞれの感想と意見を聞くことができました。活発な意見交換の様子をレポートします。
目 次
情報の少なさとドライバーへの不安(特別支援学校の保護者)
急には利用できない。お互いに慣れが必要。
突然利用するには抵抗があるし、不安もある。もし自分が倒れて子どもの送迎ができなくなったとき安心してお願いできるように、毎月定期的に利用することで子どもも運転手さんもお互いに慣れていくことが大切だと思う。
移動サービスの情報が少ない分、タクシーに期待している。
過去に車いすでタクシーに乗せてもらうことができず、嫌な思いをしたことがあった。障がい者の移動に関する情報が少ない中、福祉タクシー(介護タクシー)を利用しようと思っても予約で埋まっていることが多い。また介助料の負担も大きい。その点UDタクシーは料金が一般タクシーと同じで安心して利用できる。バギーも入る車種があったのは良かった。タクシーの今後に期待したい。
タクシー業界が一体となって対応して欲しい(車いす利用者)
100%を目標に車いすで乗れるタクシーを。
今日は自分の車いすでUDタクシーに乗車できるか分かって良かった。私たちもUDタクシーについての関心は高い。(神奈川県タクシー協会横浜支部が2020年度までにUDタクシーをエリア内法人タクシー台数の30%を占める1,440台を導入目標に掲げているという説明に対して、)ぜひ100%の導入を目指して欲しい。
車が走っている状況で体験したい。
JPN TAXIに電動車いすが乗れなかったのは残念。その他の車は乗車姿勢が斜めになるのでだんだんと苦しくなる。乗りやすいように床が下がるのはうれしいが、JPN TAXIのように平らな場所に固定できる方が良かった。次回は走っている車に乗ってみたい。通りでも乗れるように車いす利用者向けにコーディネイトが必要だと思う。
ハードとソフトの両面で対応する必要がある。
障がいの状況に合わせて利用している車いすも違う。乗車準備に時間がかかるのも気になるし運転手さんにも申し訳ない。街中でタクシーに手をあげても止まってくれないことがある。そんなときは素通りせずに、一度止まって自分の車いすが乗れるタクシーを運転している仲間を呼んで欲しい。
JPN TAXIの車いす利用には改善の余地があると認識(トヨタ)
もうしばらくお待ちいただきたい。
車いすでの乗降について不便があることはお客様、タクシー会社よりご意見をいただいており、改善の余地があると思っている。JPN TAXIを導入いただいているタクシー会社へアフターサービスの一環として、車いす乗降の方法やユニバーサルデザインの考え方について、順次訪問してご案内している。
将来的に車いす利用者向け配車を「タクベル」(現:MOV)に実装したい(神タ協横浜)
時短の方法を共有していきたい。
(JPN TAXIの車いす乗降について)予約時は事前準備をしている。少しでも早く対応できるように乗務員が考え、工夫している。すべての乗務員が乗降に20分かかるわけではなく、もっと時短が可能。早い者で約5分で完了する乗務員もいる。業界内で時短の方法を共有していきたい。【三和交通横浜営業所 井澤次長】
条件が整えば配車アプリ「タクベル」(現:MOV)に車いす利用のタクシー配車を実装したい。
2018年4月にリリースしたタクシー配車アプリ「タクベル」(現:MOV)で車いすのまま利用できるタクシーをセグメントできるように、また聴覚障がいの方向けに会話をしなくてもタクシーが利用できるよう環境を作っていきたい。
アプリ側の課題も多いが、利用者側にとっては高齢者のアプリダウンロードが大きな壁になる。とはいえ条件が整えば福祉利用についてアプリに機能を実装したい。【神奈川県タクシー協会横浜支部 大野副支部長(東宝タクシー)】
福祉タクシー車両導入促進事業費補助金制度をスタート(神奈川県)
移動のバリアフリーをめざして。
神奈川県では2018年度より障がい者や高齢者が生活しやすい環境を整えるため、タクシー事業者などを対象に福祉用の車両を購入する際の補助金制度(1台あたり15万円)を創設した。車いすや寝たきりの人に対応したタクシーなどの整備に力を入れている。
利用者側からの歩み寄りも大切(かながわ移動ネット)
自分たちも利用しやすくなうような工夫を。
車いすユーザーもタクシーに乗りやすくなるよう車いすをカスタマイズするなど、工夫が必要ではないか。また特別支援学校の送迎利用では、お子様とのコミュニケーションに必要な情報をトリセツ的にまとめていただくなど、利用する側もタクシーと協力していく必要がある。
移動サービスの告知を必要な方へ。
福祉タクシー券を利用せずに廃棄してしまっている障がい者の方も多い。インターネットで使い方を告知して、利用することへの安心感を持ってもらえるよう取り組んでいきたい。
利用する方の生の声を聴くことができた貴重な1日でした。「利用者側も工夫を」という声に、あらためて移動のバリアフリーは事業者と利用者の協力ではじめて成り立つものだと感じました。自分の車いすで乗車できるか。という課題については、個人的に福祉車両のメーカーが車いすメーカーと共同で適合リストを作成するのも良いのでは?と思いました。
特別支援学校の生徒さんの送迎については、一部の地域では介護タクシー(福祉限定)事業者もその役割を担っています。介護タクシーを含むタクシーが福祉有償運送事業者の力を借りて取り組むべきことに、介護タクシー事業者が参加できていないことが少し残念でした。
最後にひとつ。「ハードの充実も大切だけど、気持ちの部分も大切。」という利用者の方の言葉が一番心に残りました。IoTやAiを見守りや介護に活用する話をよく聞くようになりましたが、便利になるのは大いに結構。でもそこで「相手の気持ちを思う心」を忘れてしまわないよう、私たちは努めていかなければなりません。