介護タクシーコラム
JPN TAXIはユニバーサルデザインなのか(後編)
前編ではユニバーサルデザインとJPN TAXI発売後の現場の声についてお話ししました。ここではJPN TAXI発売から車いす乗降をめぐるトピックスをまとめてみました。改善を求める声が大きくなっていったことで、メーカー、行政がそれに応える動きを始めています。タクシー業界も乗務員の意識を変えるべく試行錯誤しています。
目 次
JPN TAXI車いす乗降問題をめぐる動き
取材やメディアを通してさまざまなケースを確認
車いすを横向きのまま固定して発車してしまった、車いすを固定できなかった、スロープの設置が分からずに応援を呼んだ、スロープを出して何とか設置できたが収納できずに営業所に戻ることになったなど、JPN TAXI保有のタクシー会社、ドライバーの方から問題点をヒアリングしました。
DPI日本会議が「UDタクシーに乗ってみようキャンペーン!」を実施
2018年5月末、多くの障害者団体が集まり障害者の機会均等と権利の獲得を訴えるNPO法人、DPI日本会議による利用キャンペーンが企画されました。目的は運転手の接遇改善と車両の改善提案。すでにこの時点で車椅子乗車拒否問題が起きているという事実と、その要因はハードとソフトの両方にあることが分かりました。
DPI日本会議の報告によると、報告があった44件中25%の11件で乗車拒否があったそうです。
神奈川トヨタがyoutubeに5分で準備できるHow to動画を公開(神奈川トヨタ方式)
2018年7月、神奈川トヨタ自動車がyoutubeに「ジャパンタクシー 車いす乗車5分で出発 ~ スロープ対策~ 神奈川トヨタ方式」というタイトルで車いす乗降準備の動画を公開。各タクシー会社でも時間短縮に向けて手順の検討を重ね、少しでもお待たせしない対応を目指して指導・教育に取り組んでいます。
乗車拒否問題がメディアに大きく報じられる
2018年10月、NHKのニュースで車いすの女性が都内の駅前でJPN TAXIに乗車拒否されたことが報じられました。これにより車いす利用者の乗車拒否問題がクローズアップされるようになりました。
インターネットで集めた改善を求める署名をトヨタへ提出
名古屋市在住の車いす利用者がJPN TAXIの仕様改善を求める署名運動をインターネットで展開。2018年11月29日、集まった約12,000名分の署名をトヨタ自動車へ提出しました。(2018.11.30東京新聞)
国土交通省よりタクシー業界へ通達が出る
2018年11月8日、国交省より「ユニバーサルデザインタクシーによる運送の適切な実施について」という通達が業界各所に発信されました。乗車拒否への指導徹底、実車を用いた研修・実習の計画策定、研修内容に乗務員へ「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」および基本方針への理解を含める、UDタクシーの予約・配車体制の整備、UDタクシー保有台数の積極的な情報発信を求めたものです。
東京都内の病院に乗降用スロープ配備を決定
東京ハイヤー・タクシー協会が2018年3月末までに都内主要病院、ホテル、駅など約50ヶ所に車いす乗降用のスロープ配備を東京都との業務委託契約で実施すると発表しました。今後スロープの設置場所を選定、マップを作成して設置場所の周知を図るそうです。(2018.12.24東京交通新聞)
リニューアルは2019年4月以降に延期
トヨタ自動車も改善に向けて動いています。2019年1月に予定されていた仕様変更(スロープ収納場所の集約、設置手順の簡素化、手順をまとめたステッカーをシート座面裏に貼付)を一旦見送り、より改善された仕様変更を4月移行におこなう予定です。変更される内容は、
- スロープを3つ折り2枚から2つ折り1枚に変更(歩道高の無い場合に傾斜角を確保するための補助スロープ付き)
- 安全装備(Toyota Safety Sense)の機能強化
- 車いす乗車時に取り外しが必要だった金銭トレイの位置変更
- スライドドア開閉速度アップ
となっています。販売後の車両についても追加の改善策を用意しているということなので、こちらにも期待したいですね。
目標44,000台を意義のある数字に
2018年5月に公布、10月に施行された改正バリアフリー法に基づいて、2019年4月には国土交通省の発表で福祉・UDタクシーの車両台数目標が28,000台から44,000台に引き上げられる予定です。背景には発売後1年で8,933台というJPN TAXIの導入ペースの速さがあります。(2019.1.1東京交通新聞)
しかしこのまま「車いす利用者が乗りにくい、車いす利用者を乗せないUDタクシー」が増えて達成する数字では何の意味もありません。この目標を利用者目線で本当に意義のあるものにするには何をすべきか、もう一度考えてみる必要があると思います。
「介護タクシーではない」という時点で介護タクシーの認識を誤っている。
UDタクシー乗務員の方から「うちは介護タクシーじゃない」という声をたまに聞きます。介護タクシーは乗客と利用方法を制限されたタクシー(福祉輸送事業限定)であり、一般タクシーの一部です。一般タクシー会社のほとんどが持っていない車両設備と乗務員が介護資格を保有しているので別なものに思われがちですが、違います。
もしUDタクシー以外の車に乗車したいと言われた場合は「この車は車いすで乗車できる設備がない」と乗車できない理由を説明することができます。ただこれがUDタクシーならどうでしょう?車から離れた場所で介助を求められているわけでもなく、UDタクシーの前に車いすの乗客がいる。その状況で「介護タクシーじゃない」という言葉が出てくること自体、同じ「タクシー」のことを理解できていないのではないでしょうか。
UDタクシーと介護タクシーの連携は必要
介護タクシーとUDタクシーにはそれぞれの特徴、利便性があります。もちろんサービスの違いもあります。お年寄りや体の不自由な方がもっと気軽にお出かけできるように「こうやって使い分けると便利ですよ。」という発信をする必要があります。それにはお互いの連携が必要不可欠です。
お互いを知ること。まずそれを第一歩にしなければなりません。個人タクシーを開業するには法人でハイヤー・タクシーを経験する必要があるのですが、同じタクシー(一般乗用旅客自動車運送事業)の中で一般タクシーを経験することなく開業できるのが介護タクシー(福祉輸送事業限定)で、個人タクシーに比べ人のつながりが希薄なのです。
お互いの仕事を分かりあうことが大切
駅のタクシー乗り場に利用客を迎えに行った介護タクシーが構内にいた一般タクシー運転手から乗り場を出るように言われたという話を聞きました。一部の駅や施設のタクシー乗り場には「構内権」というものがあり、地元のタクシー会社が構内会を組織して乗り入れを管理しています。構内に入る権利を持っているのです。
身体の不自由な介護タクシー利用客がアクセスしやすいタクシー乗り場を使えない・・・なぜでしょう?きっとそれはお互いのことを知らないからです。移動にお困りの方のために地域のタクシーと介護タクシーが連携できれば、もっと多くの方が利用できる仕組みができるはずです。
制度改革でサービス提供者と利用者の意識を変えていく
タクシーに関して改正バリアフリー法(福祉車両の導入計画作成が義務化)に基づく目標設定は、現実的ではなかったと思います。なぜそれほど急いだでしょうか?急いだ故にこのような問題が起きたのではないのでしょうか。今回の件、あくまで私見ですが下記の制度改革で解決されるのではないかと感じました。
- UDタクシーの認定要件に「車いす乗降の準備にかかる時間」を定める。(例えば5分以上かかる車両はUD認定しない など)
- UDタクシーを1台導入するには車いす乗降の設備を使うスキルを持ったドライバーが最低3名必要で、必ずそのドライバーに乗務させなければならない。
- 車いす乗降がしやすいタクシー乗り場を増やす。
- 車いすメーカーとの協業で車いすのUDタクシー適合表を作成して乗務員、利用者へ(販売時やメンテナンス時に)周知する。
UD車両とUDドライバーの認定基準を見直して引き上げ、乗り場を整備して利用できる車いすの種類を明確にする、ハードとソフトの両輪で確実に環境を整えていくということです。言うは易しとお叱りを受けるかもしれませんが、2020年までに対応すべき環境整備と恒久的なバリアフリー、UD化はスピード感、内容ともに全く違う問題のような気がしてなりません。
より多くの当事者の声に耳を傾け、時間をかけて足を止めずに継続する。ハード・ソフトの両方において試行錯誤し、変化していくこと。これが一番大切なことだと思います。
JPN TAXIが発売されるちょうど5年前、2013年10月に一般財団法人日本自動車研究所が発表した「路線バスにおける車いす乗客の乗車方法に関する検討(乗車時間と乗車介助作業性の調査)」という資料には、最も時間がかかる条件でも全体作業時間は3分25秒と書かれていました。一般道路のワンマン運行という点で十分比較となり得る路線バスの調査結果があって、5年後になぜ乗車準備に10分以上の時間を要する車両を発表したのか。私のなかでは今も心の中に残る疑問です。
国や地方自治体の補助金対象であることも批判の的になっていますが、ここで後戻りするのではなく前へ進めていくべきです。願わくは場当たり的なあて布によるツギハギでなはく、利用するお客様のために根本から改善される施策を検討していただき、必要とあらばそこにみんなの税金を使ってもらいたいですね。