介護タクシーコラム

第52回 国際福祉機器展:運転見守りサービス(TOYOTA)

介護・医療

近年、高齢者による自動車事故の増加が社会問題となっています。 各地の自治体では免許返納を促す取り組みが進み、返納後のサポート体制も少しずつ整いつつあります。しかし、移動の足が限られる地域では「病院へ行けない」「買い物に困る」といった生活上の支障が大きく、簡単に運転をやめられないという現実があります。運転を続けるかどうかの判断は、本人にとっても家族にとっても悩ましい問題です。

「できるだけ長く自分で運転したい」という思いと、「安全に運転できているのか心配」という家族の気持ち。その間で揺れる現実は、どの家庭にも起こりうる問題です。そうした中、トヨタが開発を進めているのが運転見守りサービス。車のセンサーや通信技術を活かし、家族が運転状況を確認できる仕組みです。

実用化が進めば、運転を“やめる”か“続ける”かの二択ではなく、「安心して見守る」という新しい選択肢が生まれるかもしれません。

「監視」ではなく「見守り」

高齢の親が運転中、もし何かあったらすぐに気づいて助けたい。そんな家族の思いから、この開発は始まったそうです。

親のことを心配するのは、家族としてごく自然な気持ちです。けれど、その思いが強くなるあまり、「事故を起こさないか」「大丈夫かな」とつい監視するような気持ちになってしまうこともあります。親の立場からすれば、「見張られているみたいでイヤ」と感じてしまうかもしれません。大切なのは、信頼し合いながら“そっと見守る”こと。

このサービスは、運転の様子を常にチェックするのではなく、必要なときだけ知らせてくれる仕組みです。プライバシーを守りながら、安心を支える――そんなやさしい発想から生まれました。たとえば「県外の親戚を訪ねる」といった遠出のときも、家族は見守れる安心があり、親も「見てもらえている」と心強い。

おたがいが無理なく支え合えるそれがこのサービスの特徴です。

家族の安心を支えるしくみ

この「運転見守りサービス」は、車から送られてくる情報をもとに、見えない不安を少しでも減らすことを目的にしています。ふだんの運転のようすを知ることで、「大丈夫かな?」という心配をやわらげ、家族の安心につなげます。

日々の見守り(運転履歴)

日々の運転状況を記録し、どんな道を走ったか、どのくらいの距離を運転したかを確認できます。そして、走行距離やドライブの回数が週・月・年単位でまとめて見られるため、生活の変化にも気づきやすくなります。

危険操作の検知

急ブレーキや急ハンドルなど、危険な動きがあった場合はその回数が記録され、必要に応じて家族に通知されます。 安全運転を保つための“気づき”につながる機能です。

安否見守り

一定期間、車の利用がない場合には通知が届く仕組みもあります。 遠く離れて暮らす家族でも、「元気に出かけているかな」とさりげなく見守ることができます。

車の情報を通して日々の暮らしをそっと支え、お互いに無理なく安心を分かち合えます。

長く見守る、変化を知る

日々の運転データを積み重ねることで、長期的な変化も見えるようになります。「最近、運転の回数が減ってきた」「急ブレーキが増えている」など、小さな変化を早めに気づくことで、体調や判断力の変化にも目を向けられます。

運転傾向の確認

走行距離や運転時間、走る道の種類などを分析し、運転の傾向をわかりやすく表示します。 これまでの記録を見返すことで、生活リズムの変化にも気づけます。

認知機能の余裕度チェック

右折や合流など、判断が求められる動作を分析し、認知の“余裕度”を示す機能です。 運転にどれくらい余裕があるのかを見える化し、本人や家族が安全を考えるきっかけになります。

安全オプション・講習会の紹介

必要に応じて、安全運転サポート機能の追加や運転講習会の情報も案内。 「安全を守る」「自信を取り戻す」ための次の一歩を、やさしく後押しします。

長く運転を続けるために、“今”だけでなく“これから”を見守る。そんな視点を持てます。

車が“相棒”になって安全運転を支援

見守るのは家族だけではありません。そして、車そのものも運転する人をそっと支えます。運転する本人にとっても、車がそっと寄り添う“相棒”のような存在になります。運転を続けたい気持ちを応援しながら、安全を支えるしくみです。

認知サポート

走行中に道路標識などの情報を車が知らせてくれる機能です。 標識の見落としや判断ミスを防ぎ、安心して運転を続けられるようサポートします。

危険運転通知

急ブレーキや急ハンドルなど、危険な操作を行った際には、メーター内などにマークで知らせます。 「今の運転は少し危なかったな」と振り返るきっかけになり、無理のない安全運転をうながします。

運転する人に寄り添い、家族をつなぎ、毎日の運転を支える。車がただの移動手段ではなく、“見守るパートナー”になることを目指しています。

実際の運転状況を正確に把握するのは簡単ではありません。 「大丈夫」と思っていても、判断力や反応の変化は自分では気づきにくいものです。

運転を“見える化”することで、運転する本人は自分の運転を客観的にふり返ることができ、 家族もその様子を共有できます。 本人は「もう少し運転を続けたい」と願い、家族は「安全に過ごしてほしい」と思う。 その思いの間で、おたがいの意見を尊重しながら冷静に話し合うきっかけになることを願います。

福祉機器展では、担当者が来場者の疑問や感想に一つひとつ丁寧に耳を傾けていました。 「その視点はありませんでした」と素直に受けとめる姿勢が印象的で、 この製品がきっと、より多くの声に寄り添うかたちで進化していくのだろうと感じました。

家族をつなぎ、安心を支える。 “見守る技術”のこれからに、期待を寄せたいと思います。

黒猫

著者紹介

編集部 C子
両親も後期高齢者の仲間入りを果たし、介護の入口に立っているAround50。子育てと仕事に奮闘中。

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